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2008年8月6日水曜日

DU問題

先任、ぼちぼち始めようか

今日は「超不都合な科学的真実」の第九章ですね。

だと思うだろ?
ところがどっこい今回はウランの話をする。

ウランですか…原爆の日に。

タイムリーだろ?
「軍事研究」の八月号に丁度劣化ウラン弾の話が載ってたし、あの後追加で色々と調査したのでな、今日はその成果を少々紹介しようというわけなのだ。

「軍事研究」の劣化ウランの話と言うと66ページからの
現代戦車砲の主用砲弾APFSDS
という記事ですね。
多少なりとも軍事を知ってる人には常識かも知れませんが、初心者の人にはまず「APFSDSって何?」という話からしなきゃならんと思いますが。

えー?
そんなのいいじゃん、どうせ軍ヲタしかチェックしないようなブログなんだから「みんな読んでるよね?」という前提で…

……

あーはいはい。
分かりました、分かりましたから睨まないでください。
「APFSDS」ってのは縦文字で「離脱装弾筒付翼安定徹甲弾」と言いまして、戦車が戦車を撃つ時に使う弾です。
戦車は硬くて分厚い鋼の板で身を守っているので、これを射抜いて中の人をいぢめるためには、とにかく貫通力の強い弾丸が必要です。
 では貫通力を高めるためにはどうするか?
基本は重たい弾丸をとにかく大きな速度で打ち出してやる事ですが、これを普通にやろうとすると、怪物みたいな大砲が必要になるのでいささか実用的じゃありません。
そこで、重たくて硬い素材で爪楊枝のような形の小さな弾丸を作り、これに装弾筒という軽合金のアジャスターを噛ませて戦車砲の砲身から撃ち出せるようにしてやるわけです。
 はい先任。

ええっと…この弾丸はたしかに重たくて硬い素材で出来ていますが、本体は通常の弾丸よりだいぶ小さいので結局「軽い」です。
軽い弾丸を同じ量の火薬、同じ規格の砲身から撃ち出すわけですから弾丸のスピードはかなり速くなる理屈です。
でもって弾丸が細い分、敵戦車の装甲を貫通するときにあんま太い穴を開ける必要がありませんから、同じエネルギーでより深く効率よく貫通する事ができるわけです。

…とまあ、大まかにAPFSDSについての説明が終わったところで劣化ウランの話に入ろう。
先にも説明した通り、APFSDSの素材には「重たくて硬い」という性質が求められるわけだが、この要件を満たそうとすると必然的に
「タングステン合金」が候補に挙がる。
代表的な組成ではタングステンが九割であとがニッケルと鉄。
比重は17.5というから水の17倍程度。
引張り強さは1650N/平方ミリだからまあ、特殊鋼並みということだな。

それじゃアメリカはなんだって劣化ウランなんか使うんですか?

うむ、劣化ウランには「とにかく重たい」という長所がある。
アメリカがAPFSDSに使用している合金は劣化ウランにチタンをちょびっと加えたもので、比重は18.5。
引張り強度は700N/平方ミリくらいだそうだ。
ただし、比重では若干有利なものの、やっぱり強度が弱い。
…では強度が低い分、劣化ウラン弾の方が貫通力が小さいかと言うとその逆で劣化ウラン弾の方が10%くらい勝っているのだそうだ。

やっぱり比重の大きさが効いているんですか?

いや、それがなんでも「セルフシャープニング効果」というのが作用しているらしい。
どういう事かと言うと、APFSDSが装甲にぶつかるとき、装甲に穴を掘りながらAPFSDS自身も先端からどんどん潰れてキノコの傘のような形に変形してゆくのだが、タングステン合金の場合この傘が大きく成長するのに対して、劣化ウラン合金は傘が成長する前に崩れてしまうので尖った状態で装甲の中を進む事が出来る。
なので、劣化ウラン弾の方が若干貫通力が高くなるそうなんだな。

しかし、それなら何だって他の国は劣化ウランをAPFSDSに使おうとしないんですか?

そりゃまあ、優れているとは言っても10%程度だからな。
しかも撃破された敵戦車から放射能が出るとなりゃ…ね。
更に言えばアメリカはタングステンの資源量が少ない上に、劣化ウランの在庫をごっそり抱えている。
その結果、劣化ウランをタングステンの代用に…という流れが出来てしまうわけだな。

そりゃまた迷惑な…

ところが日本もこの問題と無関係というわけにはいかない。
劣化ウランは原子力発電の燃料である「低濃縮ウラン」を作る過程でどうしても出来てしまう。
アメリカが48万トンの劣化ウランを貯蔵している一方で日本もまた一万トンくらいは貯蔵している。
アメリカよりは少ないとはいえ、核燃料を作れば作るほど出来てしまうし、原子炉じゃ燃やせないしで困ったものだ。

燃えないとは言っても一応放射性物質なんですよね。
しかも何ですか、通常は六フッ化ウランの形で高圧ボンベに充填して貯蔵されるのだとか。

ウランを濃縮する工程で一度六フッ化ウランにするからね。
酸化ウランにでもしておけば、少しは保管しやすくもなるだろうが、
分離が済んだら製品にならないものは処理もせずそのまんまポイって感じなんだろうねぇ…たぶん。

それにしても処理する方法無いんですかコレ。

じつは無くもないんだよね。
劣化ウランは中性子を浴びるとプルトニウムに変化する。
事実、殆どの原子炉の中ではこの反応によって作られたプルトニウムが分裂する事で発生したエネルギーが大体三割を占めている。
だから「少なくとも理論的には」劣化ウランも原子炉で燃やす事はできる。

ああ、プルサーマルってやつですね。
使用済みの燃料から分裂可能なプルトを取り出して、劣化ウランに混ぜて燃やす。本来ゴミである劣化ウランも燃やせてウマーと。

ところがこれをやると核燃料が分裂して燃えてゆく一方で、一部の原子核は中性子を吸収して超ウラン元素に成長してゆく。
こいつらを「マイナーアクチニド」という。
通常型の原子炉じゃ燃えないから、使用済みの核燃料をプルサーマルで再処理して使い回しているとこいつがゴンゴン出来てくるんだが、これがめちゃめちゃ放射能強い。
酷いのになると自分勝手に核分裂して中性子まで出す始末。
しかも放射性の強い物質はたいがい半減期短いのに、こいつらは寿命も長いから、今のところ地層処分だねって話。

酷い…

ただし、将来的にはあながち処理不能というわけでもない。
一般的な原子炉が使用する「熱中性子」はスピードが遅いのでこれらの厄介な核種を分裂させる事が出来ないが、核分裂で発生してすぐの「高速中性子」ならばこいつらから優先的に分裂させるという特性がある。
だから、この「高速中性子」を使用する「高速炉」であればマイナーアクチニドを殆ど発生させずにMOX燃料を燃やす事ができる。
実際に日本でも開発計画があるようだな。

なるほど、中々に良さそうですね。

ところがどっこい、ここに日本特有の問題があったりする。
というのは、原子炉の中で出来るプルトニウムはマイナーアクチニド(正確にはプルトニウム240)のせいで、とてもじゃないが核兵器になぞ使えたシロモノではないのだが、高速炉や高速増殖炉で核燃料を燃やすと、マイナーアクチニドから先に燃えて無くなっていくので、核兵器に転用可能な立派なプルトニウムが出来るのだ。
核武装万歳!
わあが日本のオオォォ!科学力はアァァ!!

やめなさいよ艦長。
今日原爆の日でしょ?

まあ、そういうわけでな。
日本としては今のまま劣化ウランを溜め込んでゆくか、それとも核開発を疑われてでも高速炉を開発するかという困った話なんだ。
「核なんか捨てろ」と言っても地球温暖化の昨今じゃ難しい話だし、太陽光発電や風力発電なんかも日本の気象だとアレだし。

はあ…なるほどね。

※追記:その後入った未確認の情報ですが、松岡理氏の「新版プルトニウム物語」という本によると高速増殖炉と言えど作り出せるプルトニウム239の濃度はせいぜい70%程度で、やっぱり核の材料には使えそうも無いようなものらしいです。
なので、どうやら核開発を疑われずに高速増殖炉を研究・稼働する事は出来そうです。
…まあ、そうなると高速炉とてマイナーアクチニドの消却効率はさほど高くもないという残念な話でもあるわけですが。

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