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2007年4月28日土曜日

玉虫色のF-X選定

過疎だ過疎だと言っていますが、それでもたまーに通行人が現れるみたいで、さっきチェックしたら、5日にpianさんという方からコメントを頂いてました。

ところで航空自衛隊の次期F-XはF-15FXとラプたんの二段構えに決定したらしいです。
http://www.47news.jp/CN/200704/CN2007042101000645.html

次期F-Xについては軍オタの間でも前々から
「米空軍が使ってるのと同じ機体を入れてるからラプたんにケテーイでしょ」
「いや、ラプたんは政治の問題でダメっぽいよ。F-15FXでしょ」
てな事が言われてたんですが、その議論をそのまま先送りしちゃったような形で、「F-15FXとラプたんでハイローミックス」とやっちゃった防衛省には、
「やっぱりお役人の集団であったか。」
としか思えないのですが、とりあえずおめでとうございますとでも言っておきましょう。

しかし…小官は個人的にラプたんの輸入解禁に時間がかかるのなら、むしろライトニング2が手に入らないだろうかとも思います。
そりゃコストの関係なんかもありますけれど、さらに大きいのはアビオニクス、いや、ずばり言うと運用思想です。

ラプたんの場合、自前のレーダーも使えないことはないですが、基本的には自分からは電波を出さずに(ステルス機が逆探知されたら笑い話ですからね)空中管制機が捉えたターゲットを叩きに行くというのが基本戦術なんで、効率的な運用にはどーしても連携が必要で、そのための周辺機材なんかが必要になってしまいます。
一方ライトニング2の場合、限られた数で運用する艦載機であることもあって、自分で目標を探す能力が高いらしい。
具体的にはラプたんが持っていない赤外線探知機を備えているらしい。
ここに例の「スナイパーポッド」なんかと類似の光学策敵機材(ただし日本で独自に開発したもの)を乗せてやれば、お安くコンパクトな防空戦力を組み立てることが出来そうです。
それにライトニング2は最初から輸出を前提とした機体なんで、防衛省としてはクリアせにゃならん課題は派閥争いくらいのもの… となれば、結構おいしそうなんですがどうでしょうね。

2007年4月21日土曜日

楽しい核物理学講座その4~原爆で3-.2-.1-.アフロー!!

カラー電子ペーパーが出たんで、話題になってるみたいですね。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/20/news069.html
一方、小官といえば、この一週間何も無い平穏な日々でした…と言ったらウソになりますね。
きっかけは例によってレム睡眠の最中に受信したデムパを「上位世界からの託宣」ということにして、「大人の科学」の「紙フィルム映写機」ってやつを買いに本屋へ行ったことです。
http://otonanokagaku.net/next/index.html
そしたら、何かの教材でしょうか。変な吹き替え版のDVDが流れてて、
ポパイが琉球語しゃべってた。
(「琉球語」は「うちなーぐち」と読んでください。どうもかっこよく書けないので。)
で、これらとは関係の無い「趣味の本」を読んでたら、
F-Xの記事の末尾に「次次期F-Xにコレはどうだ?」という煽り文句で
ストラマが載ってた。

しかし、これらのトピックスをいちいち扱っていたのでは、鉄板原爆の腱鞘炎…もとい検証編がぜんぜん進まないので、中性子の話もしたことだし、早速原爆の話を始めたいと思います。
そういえばあの妄想マルチロール戦闘機も核を搭載する予定だそうですね。
…というわけで、はい。
http://www.ne.jp/asahi/hayashi/love/nuclear1.htm
同じものを何度も貼り付けるようですが、これが原爆の基本であり、素人向けの教科書といっても差し支えないものですから、ご容赦を。
日本人にとって非常に馴染み深いこの二発の原爆ですが、(最近は知らない莫迦も蔓延していると聞きます、小官の受けた教育に感謝。ただ、講師は皆反戦左翼でしたが。)広島型の場合、64キログラムのウラン235が使用され、長崎型には6.2キログラムのプルトニウム239が使用されたという情報が読み取れるかと思います。
これらの情報に追加させて頂くならば、この砲身式と爆縮式という二通りの原爆のうち、以後のメインストリームとなってゆくのは長崎型であるプルトニウム爆縮式でありました。

その理由はまあ、だいたい二つだと思います。
第一にプルトニウムは確保が容易であったということ。
天然ウランに必要な同位体であるウラン235は0.7%しか入っていません。
これを濃縮するのはえらいことです。
一方、黒鉛炉などに天然ウランを放り込んで何ヶ月か燃やしてやると、中性子のために燃料の中にプルトニウムができてきます。とても簡単で、しかも省資源です。
第二にプルトニウムは臨界量が小さいということ。
先にあげた資料からも読み取れる通り、プルトニウム原爆だと、核物質の量は少なくて済みます。
要するにプルトニウムの方が燃えやすいのですが、それは爆弾本体の小型化に直接関わってきます。このファクターは兵器として発展の余地が大きいことを示します。
かわぐちかいじの仮想戦記漫画「ジパング」では、和製原爆があまりにも大型化してしまったために、輸送手段として戦艦大和を使用するくだりがありますが、まさにその問題があるわけです。

ただし、プルトニウムに問題が無いわけじゃありません。
それは何度も言ってるように、プルト240の自発核分裂の問題です。
原爆の点火シークエンスというのは基本的に、火薬なり何なりを使って核物質を物理的に合体なり圧縮なりして、
「臨界量を突破したところへある程度まとまった数の中性子を放り込む」
というものです。

ウランの場合、砲身式でも確実に爆発させることができました。
ただ、資料を見るとやはり自発核分裂によって発生する中性子のリスクを回避するためか、タンパーには劣化ウランではなく炭化タングステンが使われていたみたいですが。
一方プルトニウムは最初から自発分裂の問題を回避することが無理でした。
この自発分裂によって核物質の中に最初から中性子が沢山存在すると、臨界に達する前にくすぶってプスプスやり始め、臨界をちょっと突破したあたりで核物質はプラズマ化して爆弾を蒸発させてしまう「未熟爆発」が起こります。
これは面白くないです。そもそも「核物質の臨界」というのは、
「連鎖反応を繰り返しても中性子が減らない」という条件のことです。
この一線をはるかに飛び越えて、
「もしも中性子が来たらバコバコ増えまくりますよ」
という「超臨界」になったところへすかさずまとまった数の中性子を放り込まないと爆発とは言えるような現象は発生しないでしょう。

ところが、プルトで砲身式をやると、自身の中性子が原因で「砲弾」が「目標」と合体するまでの0.5ミリ秒の間にこの「未熟爆発」が起こる危険性がありました。
そこで、臨界量をちょっと切るくらいのプルトニウム球に爆薬を使って数千気圧の「球形の衝撃波」を浴びせ、圧縮することで超臨界にしてやろうという爆縮型が生み出されたわけです。
例えば、あるプルトニウム球を爆縮して直径を半分にしてやると、原子の数は変化しないまま表面積は四分の一になります。
つまり単位質量あたり逃げてゆく中性子の数が四分の一になるわけです。
圧縮しなかったとすると、球の直径を四倍…つまり64倍の重さの球を作ったのと同じことになります。
…まあ、これは極端な計算ですが、爆縮方式がいかにすばやく効率的に超臨界を達成できるか、これでご理解いただけるかと思います。

ちなみに現在ではプルトニウム239では4キログラム、ウラン235では15キログラムほどあれば原爆に仕立て上げることは可能で、材料のグレードと、爆縮技術のレベルなどにもよりますが、最低2~1キログラムのプルトニウムがあれば原爆にできるとも言われています。(ただし、最高の技術と材料をこれでもかとばかりにつぎ込んだ場合の話)

なんか疲れましたが、たぶん次回で「原爆の小型化」から鉄板原爆の検証に入れると思います。
乞うご期待…という事にしといて下さい。

2007年4月14日土曜日

ラプたんの声

22日の参議院補欠選挙を応援するために明日、首相が来県なさるそうです。
こないだ政見放送見たんですがね、個人的には金城さん応援したいな。
他の候補者が「とりあえず頑張ります」みたいな事くらいしか言ってなかったのに、彼は
「尖閣諸島の油田を掘って県の経済を潤すのだ!」
とやってくれてましたから。
そうなんですよ。本当はあの油田、沖縄県の物なんですよ?
だけど彼、(保守ではあるが)無所属なんだよねぇ。
選挙資金が少ないのか、選挙運動もちょっと出足が遅かったし。
…結局のところ日本国民の総意としては、
「油田を与えてでも今は中国と仲良くすべし」
といったところみたいです。

…っと、何やってるんだ小官は。 危うく本題忘れるところでした。

先月のことです。
ジェット音が聞こえてきたので小官のオヤヂが「あれはラプたんの声だよ」
と言いました。そこで小官が窓から空を見上げてみると、
遠目にもイーグルと判るクリップドデルタ翼が去ってゆくところでした。
その後何度か同じような事があったので、小官は遂に重い腰を上げ、検証のために「砂辺ポイント」へデジカメ下げて向かいました。
ラプたんの鳴き声については、例によってオブイェクトのコメント欄にいろいろ書き込まれているので、そちらの方を参照なされるとよいでしょう。
http://obiekt.seesaa.net/article/33911354.html

砂辺ポイントは嘉手納基地の進入路と国道が交差する場所で、運がよければイーグルの着地を至近距離で拝む事ができます。
ただし、ちょっと谷がちになっているので、ここからは滑走路の方までは視線が届きません。
空撮マニヤの視点では、王道が安保の丘で、穴場狙いが砂辺ポイントってとこでしょう。
やっぱりご他聞にもれず、平日なのにワゴン車停めて望遠レンズのデジカメ持った人たちがそこそこいましたよ。

…が。
イーグルイーグル、イーグルばっかでラプたんらしき機影は影も形も無い!
仕方が無いので、空撮マニヤをちょっと離れたとこからデジカメで盗撮し、その辺を旋回しているイーグルをいい加減に写し、「今日はもう帰ろう」…と、考えた時。

「それ」が見えました。
ラプたんのダイヤ型な尾翼が誘導路の上を歩いてゆくのを。
これを撮らにゃお話にならん。
少し背伸びすると、ちょっとタイヤが隠れるくらいのアングルで、全体をフレームに収めることができたので、パシャパシャ撮りまくりました。
隣の滑走路へ向かうラプたんも、モデルさんか何かのようにくるっとターンしてくれたので、遠慮なく全周から撮りまくりました。…主におしりを。
で、多分対ステルス機戦闘の訓練でもするんですね。
ラプたん二匹に続いて、イーグルが二匹現れ、四匹でこっちにおしりを向けて滑走路の隅の誘導路に整列すると、順番に滑走路に入って飛び立って行きましたので、実地できちんと音を比較することができたわけです。
そんなラプたんは、帰り道でもちょくちょく北谷の上空に現れて旋回してったので、クルーズ時の音もちゃんと覚えることができました。

で、ラプたんの鳴き声ですが、後で動画を再生してみると、案外ジェット音より、自動車の音の方が大きくて驚いたりもしましたが、やっぱりラプたんは基本的に離陸のときも静かです。
はっきし言ってよほど注意してないと民間のジェット旅客機と聞き間違えるような音を出して離陸していきます。
これに対してイーグルは、下手すると苦痛すら感じかねないような激しいジェット音が自分の360度全周から降り注いできます。誇張ではなく本当に付近一帯の空気の塊を低周波で振動させます。
具体的なイメージで言うと、プロレスラーがリングの上でマイク片手に相手を挑発する声がイーグルなら、その後ろから聞こえてくる観客のヤジがラプたんというくらいの違いがあります。

そして、クルーズ時の音ですが、アフターバーナーを使わない限り、この種のジェットエンジンの出す音には大きく分けで二種類の成分があります。
一つは、「どごおおおぉぉぉ」という低周波の典型的なジェット音。
もう一つは「くぅぉぉぉぁぁぁ」という感じの強いて言えばハーモニカに似てなくも無い感じの比較的高音域の成分。
イーグルの場合、大抵は前者が先に来て、飛び去ってゆくときに後者が後から追いかけてきます。
これが、ラプたんだと、まず後者が聞こえ、その後から小さく前者が聞こえ始めます。
ただし、この「ハーモニカ」音は、タービンブレードが共鳴する音であるために特定の回転数でのみ出るのかは判りませんが、聞こえない場合がけっこうあるようです。
そのため、「ごおおぁぁぁ…」という遠いジェット音に「イーグルだな」と思って空を探すと、ほぼ真上に近い所をラプたんが二人組みで飛んでいた…なんてケースもままありました。

結論から言うと、ラプたんは静かで、ちょっと声が甲高い。
それは従来音波の形で空気中に捨てていたエネルギーを有効に使えるようになったことの裏返しである… といったあたりに落ち着くと思います。

2007年4月6日金曜日

たのしい核物理学講座その3~中性子を制するものは核を制す!

前回は
核エネルギーってそもそも何よ?
って話をしました。
で、今回はその核エネルギーを引き出す方法についてやろうと思います。

原子核を構成している「核子」のパワー「核エネルギー」。
そいつを引っ張り出すには、早い話が「原子核をぶっ壊す」ことだというわけですが、原子核を直接ぶっ壊すには大きな障害があります。
それが「電磁力」具体的には、原子核に含まれている陽子がプラスの電荷を持っているので、原子核をぶっ壊すために何がしかの素粒子を叩き込んでやろうとすると、その電荷に邪魔されてしまうのです。
まあ、粒子加速器など使用すれば実験室レベルでやることは可能ですが、工業レベルでやろうとすると
http://www.keidanren.or.jp/mutsu/ITER.html
こんなブツが必要になったりするわけです。
もしかすると「原子核を壊してないじゃないか」と突っ込みたい人もいるかも知れませんが、「エネルギーの高い原子核をエネルギーの低い原子核に変換」することで余ったエネルギーを取り出すという原理は基本的にいっしょです。

で、超伝導磁石とかプラズマ制御だとか、んな超絶科学はっきり言ってやってられませんよね?
ところが、前世紀の初めに既に都合のいい存在が発見されていたのです。
「それ」は電荷を持たないので、原子核に簡単に接近することが可能です。
その上、核力の影響だけは受けるので、接近したあと、結構簡単に原子核に吸収されます。
それが今回の主役「中性子」なのです!
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%80%A7%E5%AD%90

そんで、中性子を吸収した原子というのは、陽子の数が増えたわけじゃありませんから、化学的な性質は変化しないままちょっとだけ重くなります。
ただし、原子核の中での核力のバランスはばっちり崩れていますから、たいていの場合放射能を帯びます。
http://spiral_inspiration.at.infoseek.co.jp/ri.html
ちなみに、放射性元素はその種類によって、エネルギーが違うので、成分の判らない「資料X」を一時的に原子炉の中に放り込んで、戻ってきた「資料X」から出てくる放射線のエネルギーを、半導体検出器とかで測る事によって、「資料X」に入っていた元素の構成比を割り出す「放射化分析」という方法があったりします。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/ja3/qa/qa1.html

で、「とくに重たい元素」のケースですと、仲間割れが起こりそうなところをなんとかバランスを保っていたという状況に、「外部からの中性子」というかく乱要因が混ざりこむことで、致命的な結果を引き起こすわけですね。
これが「核分裂」ですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E6%A0%B8%E5%88%86%E8%A3%82

そして、重要なことには、核分裂が起こると新たに中性子が発生するという点でです。
有名なウラン235の場合、(ソースにもよりますが)平均すると一回の核分裂で大体2.4個の中性子が出ると言われています。
で、この中性子が全部次のウラン235を分裂させると仮定した場合、二回目の反応で中性子は5.8倍、三回目で14倍・・・ってな具合に「不幸の手紙」よろしく増加していくわけです。
これが「核分裂連鎖反応」です。
ちなみに原爆の場合、大体80回くらいで核物質が全部燃えると言われていますが、それに要する時間はなんと0.8マイクロ秒というきわめて短い時間だったりします。
http://www.ne.jp/asahi/hayashi/love/losalamos303.htm

ただ、中には「中性子を吸収しても分裂しないやつ」がいたり、「核物質の塊の外へ逃げていく中性子」(こいつが一番問題)があったりで、きちんと条件を整えてやらねばそうそう連鎖反応にはならないものです。

で、その問題をクリアーする一番の近道は「逃げていく中性子」を減らすことですが、そのためにはウランの塊をできるだけ大きくしてやればいい。
球の直径を二倍にすれば、容積が8倍になる一方、表面積は4倍にしかならないので、逃げる中性子はざっと半分になる。

そうして、「逃げてく中性子」と「核分裂で新しくできる中性子」がバランスする核物質の量を「臨界量」というわけです。
原爆を作るにせよ、原子炉を作るにせよ、核物質が臨界量以上無いと、連鎖反応は起こせないのです。

気の利いた小型原爆なんかでは、この臨界量を減らすために、核物質の周りを「中性子を反射する物質」で包むという工夫が為されていたりします。
最近は爆縮方式の改良などもあって、この臨界量はプルトだと(ソースによっては)1キログラム程度で済むそうです。
一方の原子炉では、「中性子を食べてしまう物質」でできた「制御棒」を炉心に出し入れすることによって、「ちょうど臨界量」という状況を維持します。

と、いうわけで、「核技術」とは「中性子を制御する技術」に他ならないのでした。

…おぉ、おぉぉぉ!
珍しくきちんと纏まった。(本当か?)

2007年4月2日月曜日

核物理学講座外伝其の壱~仮想戦記的核武装シュミレーション

えっとですね、このブログで原爆の話をやってるもんですから、ネタ集めの一環としてこんな本を買って読んでみました。
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=07181826
内容としてはまあ、「日本核武装論」という主題についていろんな意見を持った人たちが自説を展開するという形式となっております。
(まあ、平均して「右巻き」っぽい傾向はありますが、左巻きっぽい人たちがこの話題にきちんと触れたがらないのでこれはある意味仕方のないことでしょう)

で、「日本核武装論」については置いておくとして、この本の中でちょっとあんまりなガセビアを披露なさっている方がおられましたので、一応突っ込んでおきたいと思います。
問題の記事は176ページから始まる
「核兵器製造から配備までのシュミレーション」という記事で、筆者は
政軍史研究家・評論家の 天国 太平 となっております。
で、しょっぱなから日本中に有り余っているプルトニウムから核が作れると、”爆縮式ではプルトニウム239の割合が、六%~十%でもなんと爆発するのである。つまり不純物のプルトニウム240が九四%以下ならば、必ず爆発するからだ。”とやっちゃってます。

この人、多分「真夏の危機」って話を知らないんだと思います。
どういう事かというと、原子炉で生産されたプルトニウム239には不純物としてプルトニウム240が入ってます。
が、このプルト240、勝手に核分裂して中性子をぼこぼこ出すので、これで原爆を作ろうとすると、未熟爆発の原因になるんです。
原爆とは基本的に合体したときに臨界量を突破するように作った二つの核物質の半球を、火薬の爆発で合体させると同時に中心部で中性子を発生させてやることで「核分裂連鎖反応」を起こします。
で、プルト240が勝手に中性子を出しまくっていると、二つの半球が合体する前に連鎖反応が始まって爆弾本体を蒸発させちゃうので、核爆発が起こることは起こるのですが、その威力はまともに爆発したときのたかだか十分の一から百分の一程度の「不完全燃焼」になってしまう。
これが「未熟爆発」です。

アメリカで最初の原爆が開発された時、当初はプルトニウムについても広島型と同じ「砲身式」を使用するつもりでしたが、「パイル」で作った「ブツ」にプルト240が思った以上に多く含まれていて、そのままではプルトニウムは原爆に使えそうにないぞ… どーすんだよぉ!!
というお話がこの「真夏の危機」のあらましです。

で、この問題を解決するために開発されたより効率の高い点火方式が「爆縮式」というわけなのです。
http://www.ne.jp/asahi/hayashi/love/nuclear1.htm
詳細についてはこちらをご参照下さい。
このときに問題となったプルトニウムの濃度はたかだか0.9%です。
「連鎖反応」の引き金となるので、こんな僅かな割合でも大問題となりうるわけです。
因みに、
http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/ReneN_P_P1.html
この記事にもありますように、標準的な「兵器用プルトニウム」の組成は
239が94%以上240が6%以下。対して「燃料用」の組成は
339が56.4%で240が23.9%程度であります。
で、一応これでもいたって性能の低いものならば原爆を作ることは可能なのですが、
http://www.nucpal.gr.jp/website/support/plutonium/plutonium_08.html
この記事で指摘されている通り、こういった軽水炉から取れるプルトニウムは兵器用の五倍近い放射能があるので、取り扱いがかなり厄介です。

ところが、 問題の記事を読む限り、天国 太平 氏 はかような問題を引き起こすプルト240を、天然ウランに含まれている「分裂しないウラン238」と一緒に「不純物」とくくって処理してしまっているようなところがあります。

というわけで、まあ日本中にプルトニウムが有り余っているというのは事実なのですが、これが即兵器に転用可能かと言いますと、以上の理由からかなり難しいわけです。

じゃ、どうやれば兵器に転用できるのか?
そのためには何よりもまず質の良いプルト239を確保せにゃなりません。
で、そのためにはウラン燃料をちょびっと炙っては再処理するという方法で燃やしてやらねばならないのです。
日本で発電に使用されている「軽水炉」はそういった運転には不適です。
一方「黒鉛炉」は運転中に燃料棒をとっ替えることが簡単なので、結構簡単に「兵器級プルト」が作れてしまいます。
兵器転用のことで黒鉛炉が問題になるのはこういった事情があるからなのです。

ただし、「溶融塩原子炉」って研究中の新型原子炉があります。
http://msr21.fc2web.com/FUJI.htm
こいつは液体の核物質を再処理しつつ循環させながら燃焼させるので、やりようによっては結構簡単にハイグレードなプルト239を取り出せそうです。
或いは在来型の軽水炉でも一応「中性子源」としての役目は果たせるので、その炉心の中にジルカロイのパイプを通しておいて、そこへ硝酸ウラニルとかの水溶液を還流させる…という方法でもプルト239が確保できそうです。

しかしながら、こういったアプローチを取ったとしても、「今ある燃料用プルト」がすぐ核兵器に転用できるというわけではなく、新しい原子炉を作るか在来型の原子炉を改造するといった手間がかかるので、天国 太平 氏が主張するような「物理的に日本は即座に核武装可能」という主張は、はっきり言って仮想戦記の世界のお話であると結論付けなければならないわけです。

あ、本編の投稿よりはるかに長文化してやがる…