えっとですね、このブログで原爆の話をやってるもんですから、ネタ集めの一環としてこんな本を買って読んでみました。
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=07181826
内容としてはまあ、「日本核武装論」という主題についていろんな意見を持った人たちが自説を展開するという形式となっております。
(まあ、平均して「右巻き」っぽい傾向はありますが、左巻きっぽい人たちがこの話題にきちんと触れたがらないのでこれはある意味仕方のないことでしょう)
で、「日本核武装論」については置いておくとして、この本の中でちょっとあんまりなガセビアを披露なさっている方がおられましたので、一応突っ込んでおきたいと思います。
問題の記事は176ページから始まる
「核兵器製造から配備までのシュミレーション」という記事で、筆者は
政軍史研究家・評論家の 天国 太平 となっております。
で、しょっぱなから日本中に有り余っているプルトニウムから核が作れると、”爆縮式ではプルトニウム239の割合が、六%~十%でもなんと爆発するのである。つまり不純物のプルトニウム240が九四%以下ならば、必ず爆発するからだ。”とやっちゃってます。
この人、多分「真夏の危機」って話を知らないんだと思います。
どういう事かというと、原子炉で生産されたプルトニウム239には不純物としてプルトニウム240が入ってます。
が、このプルト240、勝手に核分裂して中性子をぼこぼこ出すので、これで原爆を作ろうとすると、未熟爆発の原因になるんです。
原爆とは基本的に合体したときに臨界量を突破するように作った二つの核物質の半球を、火薬の爆発で合体させると同時に中心部で中性子を発生させてやることで「核分裂連鎖反応」を起こします。
で、プルト240が勝手に中性子を出しまくっていると、二つの半球が合体する前に連鎖反応が始まって爆弾本体を蒸発させちゃうので、核爆発が起こることは起こるのですが、その威力はまともに爆発したときのたかだか十分の一から百分の一程度の「不完全燃焼」になってしまう。
これが「未熟爆発」です。
アメリカで最初の原爆が開発された時、当初はプルトニウムについても広島型と同じ「砲身式」を使用するつもりでしたが、「パイル」で作った「ブツ」にプルト240が思った以上に多く含まれていて、そのままではプルトニウムは原爆に使えそうにないぞ… どーすんだよぉ!!
というお話がこの「真夏の危機」のあらましです。
で、この問題を解決するために開発されたより効率の高い点火方式が「爆縮式」というわけなのです。
http://www.ne.jp/asahi/hayashi/love/nuclear1.htm
詳細についてはこちらをご参照下さい。
このときに問題となったプルトニウムの濃度はたかだか0.9%です。
「連鎖反応」の引き金となるので、こんな僅かな割合でも大問題となりうるわけです。
因みに、
http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/ReneN_P_P1.html
この記事にもありますように、標準的な「兵器用プルトニウム」の組成は
239が94%以上240が6%以下。対して「燃料用」の組成は
339が56.4%で240が23.9%程度であります。
で、一応これでもいたって性能の低いものならば原爆を作ることは可能なのですが、
http://www.nucpal.gr.jp/website/support/plutonium/plutonium_08.html
この記事で指摘されている通り、こういった軽水炉から取れるプルトニウムは兵器用の五倍近い放射能があるので、取り扱いがかなり厄介です。
ところが、 問題の記事を読む限り、天国 太平 氏 はかような問題を引き起こすプルト240を、天然ウランに含まれている「分裂しないウラン238」と一緒に「不純物」とくくって処理してしまっているようなところがあります。
というわけで、まあ日本中にプルトニウムが有り余っているというのは事実なのですが、これが即兵器に転用可能かと言いますと、以上の理由からかなり難しいわけです。
じゃ、どうやれば兵器に転用できるのか?
そのためには何よりもまず質の良いプルト239を確保せにゃなりません。
で、そのためにはウラン燃料をちょびっと炙っては再処理するという方法で燃やしてやらねばならないのです。
日本で発電に使用されている「軽水炉」はそういった運転には不適です。
一方「黒鉛炉」は運転中に燃料棒をとっ替えることが簡単なので、結構簡単に「兵器級プルト」が作れてしまいます。
兵器転用のことで黒鉛炉が問題になるのはこういった事情があるからなのです。
ただし、「溶融塩原子炉」って研究中の新型原子炉があります。
http://msr21.fc2web.com/FUJI.htm
こいつは液体の核物質を再処理しつつ循環させながら燃焼させるので、やりようによっては結構簡単にハイグレードなプルト239を取り出せそうです。
或いは在来型の軽水炉でも一応「中性子源」としての役目は果たせるので、その炉心の中にジルカロイのパイプを通しておいて、そこへ硝酸ウラニルとかの水溶液を還流させる…という方法でもプルト239が確保できそうです。
しかしながら、こういったアプローチを取ったとしても、「今ある燃料用プルト」がすぐ核兵器に転用できるというわけではなく、新しい原子炉を作るか在来型の原子炉を改造するといった手間がかかるので、天国 太平 氏が主張するような「物理的に日本は即座に核武装可能」という主張は、はっきり言って仮想戦記の世界のお話であると結論付けなければならないわけです。
あ、本編の投稿よりはるかに長文化してやがる…
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