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2008年11月5日水曜日

ヘリウム爆薬について

  先週の記事で
小官はハフニウムの核励起状態(アイソマーとか言うらしいです)を応用したγ線爆薬について述べたわけなのですが、これについて述べた以上、電子励起爆薬についても述べておく必要がありましょう。

 前回の例では原子核の中の核子が励起された状態を利用する研究についての話でしたが、今回取り上げるのは電子の方が励起された状態を利用しようという研究です。
この励起状態というのは、エネルギーを抱え込んでいるのでだいたい不安定で、すぐにエネルギーを放出して基底状態へ戻ろうとします。

 ただし、基底状態と励起状態との間にはエネルギー障壁というのがあるのでこれを乗り越えるためにまたエネルギーが必要になります。
例えば励起状態と基底状態の間のエネルギーの差分をAとし、一方でエネルギー障壁の分をBと置くと、基底状態から励起状態へ移るためにはまずA+Bの分のエネルギーを投入してやる必要があります。

 するとA+Bの分エネルギーを受け取った原子はそのあと励起状態へ落ち着くためにBの分エネルギーを放出します。
逆に励起状態からエネルギーを放出させるためには、まずBの分だけエネルギーを与えてやらねばなりません。
すると、原子はA+Bの分だけエネルギーを放出して基底状態に落ち着くので、全体ではAの分だけエネルギーを放出した勘定になるわけです。

 ここで、エネルギー障壁であるBがあんまりにも小さ過ぎると、例えば常温程度の熱エネルギーでも、たちどころにエネルギーを放出して基底状態へ戻ってしまうのです。
逆にBが充分大きければ、「エネルギーを抱え込んだ原子」をある程度安定に存在させる事ができるって寸法です。

 で、現時点ではあくまでも理論上の存在に過ぎないのですが、例えばヘリウムを励起して二個の電子(って事は全部の電子って事です)を励起状態にしてやれば、500℃程度まで固体の状態で安定な化合物になる可能性が指摘されており、仮にその励起エネルギーを放出すると1gの励起ヘリウムがTNT火薬500g分に相当すると計算されているので、兵器技術に革新がもたらされるんじゃね?
…とまあ、こういう話です。

 ただし、使いようによっては爆薬ばかりでなく、ロケット推進材のエネルギー密度を高める事によって、夢と消えたスペースプレーンやSSTOなんかを実用化して宇宙開発を飛躍的に進歩させる事も可能かもしれません。

先週のハフニウム爆薬の場合、クーロン力より強い核力によって縛られた核子がエネルギーを溜め込んでいるため、1gのハフニウムがTNT50キログラム相当といった具合に、エネルギー密度に百倍近い開きがありますが、それでも十分に高エネルギーです。

ただ…ハフニウムγ線爆薬が実験室レベルであっても実現しているのに対して、こっちは未だに合成に成功したという話がありません。

小官が生きてるうちに実用化が見られればいいのですが。

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