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2014年10月24日金曜日

基礎技術の裾野の広さがなせるわざ

 今月の更新はこれっきりとか言ってたそばからなんですが、今朝見かけた個人的に面白いと思ったニュースが、行きつけのサイトが何処も取り上げてなかったので、まことに遺憾ながら紹介させていただきます。
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熊本大とボーイング社協定、マグネシウム合金共同研究

 熊本大は23日、同大が開発した耐熱マグネシウム合金の航空機への応用に向けて、米ボーイング社と共同研究の協定を締結したと発表した。締結は22日付。同社が2020年に開発に着手する次期航空機への採用を目指す。

 マグネシウムは実用金属の中で最も軽く、航空機への応用が期待されている。共同研究では、主に同大が01年に開発した「超急冷耐熱マグネシウム合金」の実用化を目指す。この合金は、通常の機体に使われる合金と比べて約1・2倍の強度があり、930度のバーナーで4分間加熱する米連邦航空局(FAA)の燃焼試験にも合格した。

 今後は国内での量産技術の開発とともに、航空機の骨格部分への利用を想定して研究を進める。実用化できれば、機体重量が10%程度軽量化され、燃費向上なども見込まれる。
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 理科の実験を考えていただければ容易に分かる話ですが、マグネシウムというものはきわめて酸素と仲の良い金属元素で、なんとなれば一般的には助燃性の無い二酸化炭素から酸素を奪って激しく燃焼し、その燃えかすに炭素が残るという場合すらあるほどです。
しかしながら、アルミニウムと比較しても三分の二程度の比重しか無く、また、実際に試していただければ判る話ですが、単なるマグネシウムの塊をライターでジリジリと炙ってもなかなか発火しない程度には燃えにくい代物であるため、きわめて軽量に作る必要がある分野では結構昔から使用されてきました。

一例を挙げると第二次大戦から冷戦初期の米軍の爆撃機には、軽量化の為にマグネシウム合金が多用されていましたし、極端な例では原子炉の炉心に使われた例すらあります。
皆意外と知らないだけで、実際には今でもネットブックや携帯電話などの内部フレームなぞにひそかに使用されているのですよ。

まあ、一度火がつくと大変に危ない代物なんで、そう大っぴらには使えないんですけど、それだけに沸点近くまで加熱しても発火しないこのKUMADAI合金の発明というのは画期的であるわけです。

 …小官は何ヶ月か前にこのネタは既にネットで拾ってたんで、今回は今更と言うかようやく米航空機産業の大手もこの研究に目を付けたんだねという程度に思ったもんですが、最初にリンク先の動画を見た時にはおったまげたもんです。

だって、従来のマグネシウム合金だと鋳造の為に融解させたはしからボウボウ燃え始めて、こんなん危なくてしょーがないよって状況でも、さも鉛か錫で鋳物を作ってるかのように黙りこくったまんまきれいに流れて所定の形状になってくれるし、だけどこういう尖がった個性がある素材ってだいたい意外な所に弱点があるものだよな~と、思っていたら機械的強度はジュラルミン並みで耐食性も抜群っていうんですから、一瞬真面目な科学技術の動画ではなく、深夜のいかがわしい通販番組のトリック映像でも見せられたのかと思ったほどです。

それだけに、こういう今すぐにはお金にならないけど自分の思うままにそれぞれの分野を極めているこの国の研究者達の裾野の広さが、実用化されれば充分技術史を塗り替えうる研究を水面下にどんどん産み落としており、世界トップクラスの目端の利く資本家や実業家はこれが金の卵に他ならぬ事を大多数の日本人よりきちんと認識しているという話になぜご当地日本のネチズンがあまりにも無知であるのかという事に非常に歯がゆい思いをしている次第なのであります。

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