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2013年5月15日水曜日

人治主義からの脱出

 先日ふらりと立ち寄ったコンビニで読んだ本に興味深い話があったので、本日はこの話をしようと思います。

江戸時代初期の儒学者に山崎闇斎なる人物がいて、彼について以下のような逸話が伝わっているそうです。
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 儒学とは中国の孔子と孟子の教えだ。礼に始まり礼に終わる。君臣の義を明らかにせよ―といった学問だ。当然のことながら、孔子、孟子は神様扱いである。
 山崎闇斎は、この孔子と孟子の教えを熱烈に弟子たちに説きながら、あるとき、弟子たちに問うた。
「いま、仮に彼の国から孔子を大将とし、孟子を副大将として数万の軍勢がわが国に攻めてきたとする。そのとき、孔子と孟子の道を学ぶ我々は、どのようにすればよいと思うか」
「………」
 大将が孔子や孟子では相手が悪い。弟子たちは誰も答えられなかった。そんな様子を見て、闇斎は深く落胆の表情を浮かべ、
「君たちは、いままで何を学んできたのだ」
 と机を叩いていったのちに、弟子たちを睨みつけ、激しい調子でいった。
「不幸にして、そのような災厄にあったならば……我々は身を固め、武器を取って彼らと一戦を遂げるべきである。そして孔子と孟子を捕まえてその首を一気に刎ねる。こうして国恩に報じるのだ。そうすることこそが、孔孟の教えなのだ。」
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 要は先生個人の人格と彼の教えとが両立できない状況下では、教えの方を優先せよ、たとえ相手が神格化の対象となりうるような人物であっても人を見て価値観を曲げてはいけないという普通にいい話です。

ただ、小官は当の中国人はこの教えには賛同しないだろうなと思ってしまいます。
なにしろ日本人を法匪呼ばわりするような人治国家ですから、孔子孟子の時代はどうだったか知りませんが"少なくとも今の中国人は"こういう価値観に共感はしないだろうと考えるのです。

ただし、江戸初期と言えば戦国時代の直後ですし山崎闇斎は神儒一致説の提唱者でもあるんで、とことんニヒルな見方をすればそういう戦乱の時代に合わせて人間同士の横の繋がりよりも平時から命令する側とされる側をはっきりさせておくべきだという価値観を補強するために孔孟の教えを都合よく解釈した学派が編み出したセオリーに過ぎないと考える事もできましょう。
しかしながら、人を見て価値観を曲げるなというのは現代の法治主義にも通ずるじつに近代的な考え方であることも事実であり、従って江戸時代に既にこういった価値観が浸透していたという部分にも日本が明治維新以降すんなりと近代化できた要因があったのではないかと愚考する次第であります。


 で、話はガラッと変わりますが、小官はネットで時折山本五十六はアメリカのスパイに違いないという言説を見かけます。
何故ならアメリカに留学した事があるからその時期にあちらの工作員と会って洗脳されたに違いない、真珠湾攻撃の時にも"わざと"空母を取り逃がしたに違いないと言うのですが…

以上に示したような江戸時代から日本人…その中でも特に軍人が重んじてきた価値観を考えると、いくらアメリカで偉い先生に師事したからと言って不幸にも日本がそのアメリカと戦う事になった場合、先生と戦うのはイヤだと躊躇するばかりか内通者になってしまうような事をはたして当時の日本の軍人がやるだろうかと小官はそう思うのです。
実際、YAHOO知恵袋にも
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そういう事実はまったくありません。その必然性も可能性もまったくありません。山本五十六がどれだけあの戦争に反対だったか御存知ないのかな、、、余り反対するので陸軍や右翼が暗殺しようとしたくらいです。そしてその理由は特にアメリカが好きだったからではない。「負けるに決まった戦争するやつがあるか!」と怒っていたそうです。そして政府が開戦と決めたら全力を尽くしました。

親友の堀悌吉中将への手紙に「大勢に押されて立ち上がざるを得ずとすれば、艦隊担当者としては到底尋常一様の作戦では見込み立たず、結局桶狭間とひよどり越えと川中島とを併せ行うのやむを得ざる羽目に追い込まれる、、、」、と。そして東條が開戦を決めると、また堀中将に「個人の意見と正確に正反対の決意を固め、、、」と書いています。
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このようなアンサーがある通り、軍事的な有利不利をよく弁え、負ける戦いは個人的に首肯しないが一旦開戦と決まれば全力を出して戦う典型的な軍人として知られております。

むしろ、アベノミクス叩いてる輩とか特にそうですが、てめえ自身はガッチガチの反日であるくせに保守派のやり手人物についてひどい場合は先祖まで遡って
「これこれこういう出自の人間だから保守派を装った売国奴に違いない」
とやって、その支持者を切り崩そうとする論法をイヤになるほど見ている身としては、またいつもの連中かとしか思わないわけなんですが、まあこういった連中に限ってどうも上で述べたような法治国家に生きるマトモな日本人としての教育を受けていないのか、一旦権力を握った人間はその職分を私利私欲のため都合よく運用してもいいんだみたいな思想の持ち主であるケースが往々にして見られます。

故に結論として言わせて頂きますが、人治主義は近代的価値観の天敵です。

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