先任、ぼちぼち始めるぞ。
電波解析だ。
えー!?
「えー」じゃない!
前回
「爆雷落としてこないだけでもマシでしょ?
きちんと消化しましょうよ。」
って言ったのは誰だよ。
あー、今回の電波解析は「超不都合な科学的真実」の第八章
言葉に秘められた魔力「リバース・スピーチ」の謎を追う
ー心理分析から人類の意識改革まで進化するか
らしいですね。
今回の話ではまずレッド・ツェッピリンの曲に悪魔的な内容の逆再生メッセージが入っていたと騒ぎになったケースが出てくるな。
で、検証のためにカリフォルニア州議会でそのテープを逆再生してみたところ、何人かの議員が「俺は悪魔に仕える」という言葉が聞こえると主張したんだとか…
何年か前のホラー番組に似たようなコーナーがありませんでしたか?
普通に聞いていても、よくよく気をつけてみると曲が終わったあとに変な悲鳴が入っていたり、「タスケテ…」って音声が入っていたりというやつ…
この件に関しては、小官はもっと興味深い事例を知っている。
半年程前の「試してガッテン」で難聴の特集がやってたんだが、その時の実験でプロの音楽家数名に
「この音声には『さくらさくら』が混ざっています」
と言って聞かせたところ、殆どの人が
「さくらさくら」が聞こえると言ったのだ。
…ところが、番組が彼等に聞かせたのは実際には「ホワイトノイズ」だったのだ。
その番組、自分も見ました。
ゲストの人達に女性が発音する映像を見せてましたよね。
なーんか聞き取りにくい声を出してて、ゲストの人達が
「『だだだーだ』って言ってます。」
「自分は『ざざざーざ』って聞こえた。」
なんて言ってるんですが、これは「だだだーだ」と言ってる映像に
「ばばばーば」という音声をかぶせたものだったんですよね。
だから目をつぶって聞いてみるとちゃんと「ばばばーば」と聞こえる
…結局、人間は耳だけで言葉を聞き取ってるのではなく、聞き取りにくい部分を脳内で補完しているんだって話でした。
ただ、本章では例によってまたイグノーベル賞に相応しいような種類のアマチュア研究家が出てきてるな。
今回の人はオーストラリアのデイヴィッド・ジョン・オーツ氏。
彼はレッド・ツェッピリンの一件に興味を持って2000枚以上のアルバムに収録された楽曲を分析し、約半数の曲に逆再生メッセージが現われることを発見した。
しかも、逆再生メッセージを意図的に加えると、どうしてもその部分に違和感が出てしまうが、そういった形跡が一切見られない事から、このメッセージは無意識のうちに入ってくるものだと、そして人間の会話やスピーチにも同様の逆再生メッセージが現われるのだという事を発見したのだそうだ。
なんかありがちなパターンですね。
…やっぱ香具師なんですか?
いや、オーツ氏は若干科学的なアプローチを取っているな。
被験者を三つのグループに分けて第一のグループにはオーツ氏が聞き取ったメッセージを書いたリストを与え、第二のグループには無関係なメッセージを与える。
…そして第三のグループには何も与えずに同じ逆再生音声を聞かせたところ、第一のグループは高い確率でリスト通りに答え、第二のグループは誰もリストにあるメッセージを見つける事はできなかった。
そして第三のグループが聞き取った単語は殆どがオーツ氏の聞き取ったメッセージの中に含まれるものだった。
なるほど、科学的ですね。
ところがどっこい、O・J・シンプソン事件の公判に関して、逆再生でこういう分析が出てきている。
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伊藤判事:ミスター・シンプソン、陪審員の選考を9月19日から9月26日まで行うために、前もって選んだ日程で続けていくことを了解しますか? 7日間、裁判が延長されることになるのを了解しますか?[シンプソンが彼女らを殺した]
シンプソン:はい[私がやりました]
伊藤判事:よろしい。その日程調整でよろしいですか?[彼はわかっているだろうか?あなたが愛する婦人を殺した]
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シンプソン事件ってたしか、検察側の提出した証拠が捏造だったんですよね…
手袋は小さ過ぎて容疑者の手が入らないわ、血からはヘパリンがでるわでもうメッタメタ。
「逆再生だけに正反対の結果が出ました」って事ですかね?
うむ、リバース・スピーチに関してオーツ氏は無意識のうちに右脳で生成されて言葉に織り込まれる形で出てくるんだと。
人間は言葉を習得するときから、裏のモード、つまり逆転した発声から習得しているんだと。
だから赤ちゃんのバブバブ言う声も、逆再生するときちんとした言葉になっているんだと主張しておるようだ。
まじっすか?
さあ?
とりあえず、これに関して著者は「パラグラム」に注目したフランスの言語学者の例なども挙げて、感情を司る右脳にはこういった情報処理を無意識のうちに行う能力があるんだと言っておるようだ。
だから「平和や愛の歌」を心から歌えば、これを逆再生しても同じようなメッセージが出てくるが、「アホくせ」とか思って歌った場合は逆再生でバレバレなんだそうな。
要するにお前さんが司令部に無線電話で「ジュゲムジュゲム」なり「バブーバブー」なり、適当なことを言って、司令部の方でそれを逆再生してもらえば、本艦の現在位置や状況を詳細に報告することができるってわけだな。
んな無茶な…
ところがオーツ氏はその無茶を実際にやってのけた。
90年の湾岸戦争が始まる数ヶ月前、ペンタゴン要人のスピーチを分析していたオーツ氏は今まで聞いたことの無い「シモン」という単語が出てくるようになった事に気付き、ワシントンの知人を介して消息筋に問い合わせたところ、この単語は「砂漠の嵐」という意味だという事が判った。
この話はCNNでも話題を呼んで、オーツ氏はマスコミから多くのインタビューを受けたのだそうな。
で、オーストラリアやアメリカでは警察の犯罪捜査に逆再生分析が利用された事例もあるのだそうだ。
アメリカが採用したから本物とは限らないんじゃないですか?
事実、アメリカには超能力捜査官なんてのがいるし、
マイノリティ・リポートってSF映画が公開された時には、警察から「プリコグって本当にいるの?」って問い合わせが来たって話もあるし。
まあ、シンプソン事件の件で科学捜査が「かなり高い確率でシロ」と判定したものを「ガチでクロ」と判定するくらいだから、結局
「そういう現象もあるんですよ」って話で、これを明確な証拠として認識してしまうのは、軽率に過ぎると思うね。
ところが、この章の結びはこうなってる。
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逆再生メッセージが有効であるゆえに、政治家たちは会話の録音、逆再生を禁じる法案を可決させようとするかもしれない。そのとき、はたして誰もが「ノー」と言えるだろうか。
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どんなに検察側に有利な解釈をしてもせいぜい「証拠不十分」が妥当なケースを「ガチでクロ」と判定してしまうような技術が有効ねえ…
んなもんが普及した日にゃ、刑務所は濡れ衣を着せられた人であふれかえり、娑婆は犯罪者が歩き回るような事になるだろうよ。
試してガッテンでやってた実験では、ゲストの人が映像に惑わされて正しい発音を聞き取れませんでしたけど、そういう実例も考えると、リバース・スピーチ自体、そもそも信頼性が「?」ですよね。
なのに、その続きの部分でミズモリ氏はこうやってる。
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誰もが相手の心を読むことができるようになれば、争い事、犯罪や紛争、さらには戦争すら減少・回避されるかもしれない。
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…逆じゃないですか?
頭の弱い中学生とかならまだしも、大の大人ともなればいつか砕石機の中に突き落としてやりたいとか思っている相手にだろうと、必要ならば相手の面子を立てて矛を収めてもらうために嘘をついたり、場合によっては土下座までするわけで…
それが無効化されちゃったら、あっちこっちでおはぎに縫い針入れたり鉈を振り回したりってな事になるんじゃないですか?
ハンス、…お前人を殺す方法に詳しいな。
そりゃそうと、このあともミズモリ氏の妄想は暴走を続け、遂にはこんな事まで言っちゃってるな。
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オーツ氏の研究が普及すれば、我々は裏表のない人格形成を余儀なくされ、精神性を高める努力を行う方向へ向かい、世界の様々な問題が速やかに解決されていくだろう。
そして、我々が健全な社会に住んでいて、未来に対してポジティブに勇気を持って立ち向かえば、この技術は浸透していくだろう。
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…そもそも裏表のない人格で精神性の低い輩がやたらに多い事の方が問題だと小官は思うね。
あと、小官が好きな映画に「ニノチカ」という昔のラブコメがあるんだが、その映画に出てくる台詞に「心の中までは検閲できないさ」というのがある。
だがこの文脈では、みんながお互いの心の中を検閲し合うのが健全な社会だとでも言わんばかりだ。
…どうも面白くないね。
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