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2009年11月28日土曜日

スパコン大艦巨砲論の問題点について

自衛隊がライトニング2を導入するという話はガセであったようですね。
…いつまでもウダウダやってるとユーロファイターはおろかF2の生産再開で頭数を合わせるという策も使えなくなるんじゃあないかと思いますが。

まあ、「日本ってなんだか解んない」という認識で総理になった異星人の意向としては限りなく純減に近い方向性なんでしょうが。

さて、先週のスパコンの一件に関してですが、
「スパコンは金を喰うばかりで技術開発に何の貢献もしない」
という話が池田信夫氏のブログにあったのですが、小官は先週の記事を書く過程でこれを下調べしたとき「参考に値せず」と判断しシカトしました。

しかしながら、某所でスパコン大艦巨砲論を主張していた人がこのブログの記事を資料として使用しておりましたので、今回は小官が何故にこれを参考に値せずと判断したのかを述べる事といたします。

まず、京速計算機に関する池田氏の2007年の段階に於ける論議ですが最初にベクトル型のスパコンは金ばかり掛かる「大艦巨砲型」の代物であるというがあり、これに続く話として京速計算機はスパコンの名を借りた公共事業だという論議があります。

しかしながら、現在市場に出回っているCPUの多くはベクトル計算機互換の機能であるSIMDを実装しております。
アップル社が見捨てたパワーPC系列ではG4以降にベロシティエンヂンの名前で此れが搭載されており、プレステ3のCellプロセッサに至ってはSPEとしてベクトル演算専用の計算機を八つも搭載しています。
一般向けCPUの代名詞であるペンティアム系列に於いても97年には既にMMXというSIMD命令を実装しています。

では、スカラー型プロセッサにできる処理でベクトル型プロセッサにできない事があるのかと申しますと、んなこたーありません。
ものすごく乱暴に言ってしまえば、基本的には使っているソロバンが長いか短いかという話でしかないからです。

ゆえにITの記事を書いている者としては
「ベクトル型はコストパフォーマンスが悪い」
ではなく、
「オリジナルのプロセッサは商売にならない」
と書くべきところでした。

またこの記事の中には
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もちろんCPUの性能は、ムーアの法則で3年に4倍になるので、完成年の差は勘案しなければならないが、地球シミュレータのコストを1/5に割り引いても、TFlops単価は300万ドルと、アメリカの最新機の50倍以上である。
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という記述がありますが、2004年にバージニア工科大学がパワーマックでスパコンをでっち上げた時のITproの記事によると、この時期のスパコンは
地球シミュレータが1テラフロップスあたり11億円
ロスアラモスのASCI Qが約17億円
で、バージニアのBig Macが5534万円とのこと。

つまり、最近になってスパコンのコストパフォーマンスがムーアの法則を超えて進歩している事が見落とされているわけです。

そして、今年の事業仕分けの件を受けて理研の野依所長の憤慨は筋違いだという記事を書いているわけですが、その内容が

1.NECと日立が脱落した今、110テラフロップスの実績しか持たない
  富士通単独で予定の性能を達成できるのか。

まず、この部分について言うと京速計算機はベクトルとスカラーの複合型とする予定で、NECと日立がベクトルの部分を、富士通がスカラーの部分を担当する事になっていましたが、今年の5月にNECと日立が計画から撤退し純スカラー構成に変更されました。

池田氏の主張は「ベクトル型スパコンは時代遅れの金食い虫」であるわけですから、スカラー単独構成とすればコストパフォーマンスの良好な時代のニーズに合ったシステムが出来上がる筈なのです。
彼はこの記事の中でNECと日立の脱退を伝えている以上、
「京速計算機が純スカラー型となった事」を知らないはずは無く、このような
ベクトル型を時代遅れと叩く一方で純スカラーになれば性能不足を危惧するという発言は至って面妖なものと言わざるを得ません。

2.あくまでも道具にすぎないスパコンに多額の税金を投入する事など
  無意味。海外から安く仕入れた方がいい。

この主張は的外れです。
京速計算機プロジェクトの最大の目的はスパコン構築を通した次世代技術の習得と計算科学分野の人材育成とされています。
世界最速のスパコンを手に入れることは主目標ではないのです。
それを買った方が安いと言って独自開発を放棄してしまうのでは自前の次世代技術も計算科学分野の人材も手に入るわけがありません、それでは本末転倒です。

3.京速計算機のプロジェクトリーダーである渡辺氏はNECからの
  「天上がり組」であり、随意契約で外資を排除し自社を含む3社に
  共同発注したことは談合の疑いがある。

これはIT技術ではなく、政治の話ですね。
大体、自前の技術を開発しようという事がプロジェクトの目的である以上、他国の企業に技術を開発させたんじゃ本末転倒なわけで、この種の国家プロジェクトから外資を排除するのは至極当然と思われます。
「日の丸企業に便宜を図るな」なんて論理を敷衍してゆけばそれこそ
三菱のH-2系列ロケットはコストパフォーマンスが劣悪だ。
→こんなに金が掛かるのは談合をしているからに違いない。
→HTVの打ち上げは今後ロシヤのA-2ロケットを使うように
なんて議論すら有り得るわけです。

4.スパコンというのは学術的な問題を扱う特殊なコンピュータであり、
  世界でも年間数十台しか売れない。
  それに大学でもフラグシップモデルではなく中規模のスパコンをリース
  して使うのが一般的であり、日の丸技術で世界トップクラスのスパコン
  を作っても商売にもならない。

やはりこの人は技術開発ではなく、商売という側面でしかこの計画を見ていないようです。
更に言うと「世界トップクラスのスパコンなぞ作っても商売にならない」なんてのも実は大嘘で、地球シミュレータで実績を作ったNECは国内外の大学や研究機関に池田氏が批判するベクトル型スパコンであるSXシリーズを納入し続けております。

一通り纏めてみるとかなり長くなってしまいましたが、小官が先週の記事を書く際、池田信夫氏のブログは参考に値せずと判断したのは以上のような理由からです。

1 件のコメント:

ハインフェッツ さんのコメント...

遅ればせながら書き損じを見つけたので修正しておきます

×日立がスカラーの部分を担当する事になっていましたが、
○富士通がスカラーの部分を担当する事になっていましたが、