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2007年12月22日土曜日

超ワクチンって…何!

さあ、始まりました!
電波解析シリーズえせ科学編「超不都合な科学的真実」数年前から大晦日にはビートたけしが似たような番組をやってますが、わがブログではホホイシリーズと合わせて年越しでお送りしたいと思います。

やれやれ、やっと始めてくれたか。
…世間様はクリスマスだってのに、何が悲しゅうて野郎二人で
UFO信者の書いた本を読まにゃならんのだ。

あとでパーティバーレル買ってあげるから…

艦長、一人で全部食べて下さいね。

ビッグマックセットの方がいい?

お一人でびっくりドンキーへでも行かれてはどうです?

強がらなくてもいい。先任も今年は一人なんだろう?

いいから、さっさと始めちゃいましょう。

そだね、じゃあ始めようか。
今回扱う第一章は「誘導消失療法」の話になっている。
題名は
「ガン、エイズを治癒させる究極のワクチンが握りつぶされた!?
  ー 治癒率99%の治療法が医薬品業界に与えた衝撃」
というものだ。

なかなかにセンセーショナルなあおり文句ですね。

多少なりとも生物学を知っている人間にとっては、この時点で
「おいおい、マジかよ。」なんだがな…

どれどれ…「臨床実験で実証済みの難病治療はこうして潰された」
冒頭で学説のアウトラインを紹介する前にまず陰謀論ですか。

陰謀論だけじゃないぞ。この章では散々デムパをまき散らしといて、
ご丁寧にも、章末にはこんな文が付いている。
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※本稿は、サム・チャチョーワ博士(Dr. Sam Chachoua)の研究成果や訴訟を報じた米・豪のメディアや彼自身の言葉を参考にまとめたものだ。筆者はジャーナリストとして、海外での出来事を紹介したわけであり、読者に治療等の助言を行う事はできない。
筆者や編集部に問い合わせ頂いても詳細な情報は提供できない旨、ご理解頂きたい。
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艦長、これって…

逃げ打ってるんだよ。このケイ・ミズモリってジャーナリストは。

って事は、この本の読者にはサム・チャチョーワとかいう先生が本物か詐欺師かも判らないって事ですか?

ぶっちゃけ、そういう事だな。
サム先生が本物か偽物かは判らないけれど、陰謀で潰されたんですよという事がこの本の著者がいちばん言いたい事らしい。

いきなり結論出ちゃいましたねぇ。
…もう帰っていいですか?

いや、まだだ。
「誘導消失療法って何?」という問題が未解決のままじゃないか。

このコーナーで取り上げた以上、結局インチキなのでしょう?
ならペテン師認定でいいじゃないですか。自分はもう疲れました。

この企画そのものを否定するような事を言うんじゃないよ、
いいからそこに座って聞きなさい。

はいはい、真剣白刃取りでも龍昇閃でも…

まだそのネタを引きずるのか。
まあいい、翻訳者(多分この本の著者その人)のスキルがアレなもんで、この本のデータからではちゃんとした事が言えんのだが…
なんでも「誘導消失療法」の生みの親として紹介されているサム先生は、父親が脊髄ガンを患った事をきっかけにガン研究を始めて医者になったらしい。
で、動物の免疫をワクチンとして人間に移植し、ガンやエイズを治療しようと考えたらしいんだな、つまりは血清療法だな。

血清療法っていうと、ヘビに噛まれた時に使うアレですよね。
ガンやエイズってんな注射一本で治るようなもんなんですか?

ところが大笑い、本文中ではこう説明されている。
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 例えば、HIVの場合は人間にだけ感染しエイズを発症する。実験を行った動物には、その感染を退ける抵抗力が備わっていた。それゆえに、動物をHIV感染・エイズ発症させて検証する「動物モデル」がなく、そのことで医師たちは頭を抱えてきたのである。
ちなみに、馬、猫、犬などの動物も、人間のガンに対して抵抗力を備えている。
 そこで、サムは逆転の発想をした。それならば、どうしてエイズやガンのワクチン生成のために、動物の免疫反応を利用しないのだろうか、と。
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この時点でサム先生か著者のどっちかに生物学の知識が決定的に欠如してる事が判るんだが、ハンス君には判るかな?

人間のガンって、そもそも「変異した人間の細胞」ですよね?
ならば犬猫の体内でこいつが生きられないとしても不思議は無いんじゃないですか。
逆にニャンコのガン細胞を人間に植え付けても、常識的に考えれば、多分あっさり壊死すると思われるわけで。

そう来たか、いかにも君らしい正論だな。
半分正解だ。実はウイルスに対しても種族の違いが問題になる。
一般的にウイルスの表面にはスパイクというタンパク質のトゲが生えていて、標的となる細胞に接触すると、その細胞のタンパク質にこいつがガッチリ結合する。…このプロセスが感染の第一段階だ。

って事は…

人間に感染するウイルスは基本的に動物の細胞には感染しない。
だから動物の免疫系はコレを異物として一方的にタコ殴りできる。
だが人間だと、免疫系が処理する一方でウイルスは原子炉の中の中性子並みに殖えて殖えて殖えまくる。
ヘビやサソリの毒は体内で増えたりしないし、抗体ができる前に命を失う可能性の方が高いから、馬に作らせた抗体で中和するんだがね。

なるほど、そういう事情を知ってたら、普通は動物に作らせた抗体が患者が体内で作ったもの以上に効くなんて考えないですよね。

だが、ここからデムパがエスカレートする。
結核の患者がガンに罹らないという話をもってきて、病気にはけんかをする組み合わせがあるのだという事を言い出し、人間には病気を起こさないバクテリアをがん患者に投与すれば、そいつがガン細胞に結合して人間の免疫系がこのバクテリアを殺す時にガン細胞も巻き添えであぼーんするというのが誘導消失療法IRTなのだと。
遺伝子レベルで効くから、(いつの間にんな話になったんだ?)心臓病や喘息、ボケにも効くのだと。

このパターンって、まさしく悪徳商法じゃないですか。

そう、ゆえにここから急転直下となる。
メキシコのとあるクリニックで偽ワクチンが処方されて死者が出た事をきっかけに、サム博士は怪しいということで、学会は彼の研究成果を否定する方向へ動き始めた。
そこで彼はシーダース・サイナイ・メディカル・センターCSMCを相手取って裁判を起こし、2000年8月にロサンゼルス連邦裁判所で賠償金一千万ドルの支払い命令が出た。

ちょっと、裁判に勝ったからといって科学的に正しい事にはならないじゃないですか!
猫を電子レンジに入れて賠償金を手に入れた人の話もあるわけだし。

猫チン事件の真偽についてはともかく、サム博士が怪しい人物だってのは事実らしい。
実際CSMCが控訴すると、2001年9月には賠償金が初期の負担分である一万一千ドルに減額されたそうだ。
ところがこの章の締めくくりの部分はこう始まっている。
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 どうやら世界中に監視機関が存在し、効果のあり過ぎる治療法の発見や、歴史を覆す発見が行われると、そのような研究者の信用を落とす手段が瞬時に講じられ、専門の研究機関はそれに関わらないよう通達を受ける現状があるようだ。そもそも、医学的大発見をするのが大きな医療機関の研究者に限られていること自体、不自然だ。チャチョーワ博士のように、自らの努力で資金を得て、研究を続けてきた個人の発見が大きく報道されることはないのである。医療機関自体が一種の監視機関として機能し、そのような機関に所属せずして、世界に研究成果を公表することすら困難な状況が存在するのはまことに残念なことである。
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まあ、こんな陰謀論など反証を示すのは簡単なことでね。
例えばイタリア系アメリカ人のオドーネ夫妻は息子が患った遺伝病を克服するため、個人で研究を行って画期的な治療法を発見した。
この辺の詳細は「ロレンツォのオイル」という映画にもなっている。
「オイルは儲かるから潰されずに済んだんじゃないか」という反論も予測されるが、そもそも「オイル」の発見は従来のセオリーを覆すもので、当初は専門の医学者や患者の団体とも対立した。
だが、実際に有効であることが判って着実に理解者が増えている。
サム博士の誘導消失療法も「本当に有効である」ならば、世論を動かすほど支持者が現れないのは不自然だよな。

ってか、サム・チャチョーワ博士は今はガンの研究をやめて今後はアジアやアフリカのエイズ患者や心臓病患者のための研究を始めたいと考えるようになったって書かれてますけど、これって、詐欺師が河岸を変えたとも取れますよね?

だな。
ちなみに、小官はこの特集を組むためにちょこちょこと下調べをしてみたんだが、「誘導消失療法」に対して肯定的に書かれている記事は大体がこういった感じのデムパで、あまり参考になるデータは得られなかった。で、この章の中でちょっと言及されている「丸山ワクチン」だが、これはよりメジャーな話みたいで、ウィキにも載っている。
で、ウィキでは丸山ワクチンの有効性について
「交絡因子によるバイアス」が存在した可能性が指摘されている。

何ですか、その「交絡因子によるバイアス」って

北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」に酒をたらふくかっ喰らえば、船酔いにはならない。もしも倒れたとしても少なくともどっちでやられたかは判らないという話があるだろ、要はそういう話だ。
おまけに例の陰謀論の結びの部分はこうなってるし。
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 そもそもマラリアが存在した地域にはガンという病気はなかった。ひとたびマラリアを排除するために、沼地をなくし、蚊を退治すると、ガンの発生率は高まった。最終的に人間の病気治療に答えを与えるのは、自然界に存在する動植物にある。しかし、その薬を生む地球環境は、今も破壊されつつある。自分の父親をガンで亡くしたばかりか、救えたはずの多くの人々を助けられず、医療業界から執拗な攻撃を受け、健康までも害してきたチャチョーワ博士だが、彼が残してくれたものは、人類の生存には自然環境との共生が不可欠であるという重要なメッセージなのかもしれない。
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この博士、結局ガンの親父は亡くしてるんですね。
オドーネ夫妻は根治こそ無理だったものの、見事に病気の進行を食い止めて息子の命を救ってるのに。

ってか、マラリアが流行っているからガンが発生しないという話自体医学的にはめちゃめちゃ乱暴な論理だよ。
例えば、戦前まで日本人の死ぬ病気と言えば「結核」だったが、今では「ガン」になっている。
が、その間に平均寿命は三十年近く伸びている。
「日本人は本来ならば、ガンではなく結核で死ぬべきだった」と言うのなら、それはそれで一応「超不都合な科学的真実」だがね。

酷いブラックジョークですね、艦長。

私じゃないぞ。このケイ・ミズモリってジャーナリストのジョークのセンスが優れているんだ。

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