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2007年12月29日土曜日

ハンス、フォースを使え

よーし、始めようか先任。
今年最後のコントだ、たまには貴官が始めの挨拶をしたまえ。

はっ、電波解析シリーズえせ科学編「超不都合な科学的真実」
これより開始します!

なんだ?
なん…というか、個性のない台詞だな。

ほっといてください。
それより艦長、イランがロシアの対空ミサイルを導入するをだとか、しないだとかホットなネタもそこそこあるのに、なんだって似非科学本の批判を持ってきちゃうんですか?

先任、貴様は知らないのか?
正月楽するためには年末…

ってか艦長、正月も私をコントに付き合わせるつもりでしょう?

…よくわかったな。
だが、萎えている時間はないぞ。
今この瞬間も、救世主の皮を被った香具師が誤った科学知識を世界に広めるべく水面下で暗躍しているのだ。

言うに事欠いて陰謀論かよ、で、何ですか。
今日は「ソマチット」だとか?

その通り。
例によってケイ・ミズモリは章末で逃げを打っているし、まあ、少々科学的な知識があればソマチットの提唱者であるガストン・ネサン氏の胡散臭さは看破できるだろうが、それをやる前にまず例によって「ソマチットって何?」という話をやろうか。

血液中のゴミなんでしょう?

一般的にはそう言われている。
だが、連中はソマチットとは要するにまあ…ミディクロリアンみたいなもんだと考えているらしい。

いかにもスペースオペラっぽくなってきましたねぇ。
艦長、こういうの好きでしょう?

好きだが、小官とて科学と妄想を混同するほどバカじゃあない。
まず、「超不都合な科学的真実」には、ネサン氏が倍率三万倍で分解能150オングストロームの「ソマトスコープ」という超高性能光学顕微鏡を作って観察した結果、それまでは血液中のゴミとして無視されてきたものが、実は生物であった事が判ったという話が出てくるんだがまあ、この時点で「ソマトスコープ」とやらはかなりデタラメっぽいということが判る。

スペックから判るんですか?

うむ、光学顕微鏡ってのは、一般的な「いわゆる顕微鏡」の事だ。
可視光線の波長は390ナノメートルから770ナノメートルと言われていて、どんなに性能の高い光学系を使ってもその分解能の限界は大体100ナノメートルくらいだと言われている。
…まあ、学生実験で使うような光学顕微鏡なんかだと、だいたい500ナノメートルあたりでどうも怪しくなってくるんだけどね。
この辺の問題もあるから、一般的な光学顕微鏡の倍率は大体五千倍くらいまでになっている。
これでも位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡なんかを使えば、生きた細胞の内部にミトコンドリアがあるのが観察できる。
で、ちょいと調べてみたら、ソマトスコープには紫外線が使われているらしいなんて話もあったんだが、理論的に分解能の数値は照明に使用される光の波長と対物レンズの開口数で決まるんで、X線でも使わん限り倍率三万倍で分解能150オングストロームってのはちょっとあり得ないだろう。
ちなみに現在のX線顕微鏡の分解能の記録は15ナノメートル。
1ナノメートルは10オングストロームだから、「ソマトスコープ」にはX線顕微鏡並みの解像度があるという話になる。

たしかに、んなもんを20世紀の半ばに開発しただなんて、かなり嘘くさいですね。

で、その「ソマトスコープ」での観察によって発見された
「ソマチッド」のライフサイクルを観察した結果、人間が病気になると、ソマチッドのライフサイクルが変化して異常な状態になる。
…では、「健康なソマチッド」を病人に投与してやれば、健康になるんじゃないかってのが、ネサン氏の考えで、これに基づいて樟脳から免疫強化製剤「714X」というものをこさえたんだそうだ。

無茶な論理展開ですね、例えば珊瑚の白化現象なんかはストレスを受けた珊瑚虫の体内から褐虫藻が逃げ出して起こるらしいですけど、
「そこで珊瑚虫に褐虫藻を注射しよう」ってくらい乱暴だ…

うむ、それゆえ最近では、ソマチッドは病気の原因ではなく、病気によって悪化した体内環境から逃げようとして変態するんだという説だとか、極端な例では、ソマチッドはやはりゴミで、病気によって体内の水分子の性質が変わったのに反応して形を変えるのだという説もある。

まるでなにかの宗教みたいですね。

ソマチッドに対する宗教論争はこの際置いといて、本章ではネサン氏に影響を受けた福村一郎氏によって確認されたとするソマチッドの性質が七つほど挙げられているな。
1.ソマチッドは地球上最古の原始生物であり、当時地球上にあった元素のうち水素(電子)をエネルギー源として活動した。
2.ソマチッドは不死であり、最近やウイルスとは別の生命体である。
3.ソマチッドは環境の変化に応じて、種々の形態をとり、その環境が気に入らない場合、周囲の基質を利用して殻を形成するという避難行動をとる(休眠状態で数千万年以上は生きながらえる)。
4.ソマチッドを活性化することは、宿主を健康にすることと一致し、人の免疫力の強弱と血漿中におけるソマチッドの増減は比例する。
5.人の白血球はソマチッドを抗原とはみなさない。
6.ソマチッドは尿から排泄される。
7.ソマチッドはDNAの基質であるタンパク質を合成する。

「ソマチッドについての標準理論」ですらここまで酷いのか。
2は不死である時点で既に生命の定義には当てはまらないし。

まあ、DNAの基質がタンパク質だなんて言ってる時点でね。
本当はDNAは塩基とリン酸と糖から出来ているんだが。

…艦長、この本って11章もあるんですよね?
あと9回もこんなデムパを扱わなきゃいけないんですか?

たしかに、ここんところデムパばっかで少々疲れたな。
来年から電波解析は隔週くらいにするか?

いいんですか?

ただし、上半期はずっとやりつづけることになるぞ?

難しい選択ですね。

一応、今年はこれで終わりだ。
みなさん良いお年を!

来年もよろしくお願いします!

うーん、ハンス、お前さんには「あけましておめでとうございます」
くらいボケて欲しかったんだが。

いや、最後くらいきちんとしましょうよ?

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