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2009年8月12日水曜日

平和宇宙戦艦その1

先任、居るかい?

艦長…
私の出番ということは、例によってトンデモ本批判ですか?

自分の役どころを弁えているではないか。
今回はこの本「平和宇宙戦艦が世界を変える」だ。

たしか週刊オブイェクトで自衛隊幹部学校の講師が書いたわりにはあまりにもアホな本として紹介され、それを「SFと軍事の両方を扱ってる」ということで艦長が物好きにもジュンク堂へ行って入手されたんでしたっけ?

そのとーり。
本当だったら技術面だけに絞って
"平和宇宙戦艦なんてものが本当に可能なのだろうか"
という話をしたいところだが、そうは言ってもネタが無い。
それにお前さんにも出番を与えたいから七回シリーズで行こうと思う。

そうですか…

そんなわけで、今回は第一回。
"高度技術でプロジェクトXを立ち上げよ"の章を扱おう。
この章の内容は
・地球を悩ます諸問題
・地球外からも危機が迫っている
・日米同盟の価値は大幅に減少している
・中国の対日戦略は日本を属国化すること
・日本が今始めなければならないことは
・世界が求める日本のリーダーシップ
・日本のプロジェクトXは人類を幸せにする
となっているな。
とりあえず、今回は各節の内容を紹介して突っ込みを入れようか。

するとまず、”地球を悩ます諸問題”の節からですね。
いきなり論理構造が一貫していないグダグダな長文が続くんで、なんか読んでて疲れるんですが、ここの内容は
1.経済問題
2.地球温暖化・環境破壊
3.軍事紛争
4.食料・エネルギー
5.未知の病原体
といったものが問題になっているにもかかわらず、大国は国益の追求をやめようとせず、日本は専らその傍若無人の被害者になっているという事のようです。
しかし、自分なら”地球温暖化・環境破壊”と”食料・エネルギー"は一つに纏めますがね、軍事紛争を扱った部分でも温暖化の話を混ぜ込んじゃってるし。

うむ、そもそも地球規模での問題を国際的に解決しましょうという話と日本が外交で押されまくっているという話を一緒にする必然性がなぁ…

で、その次が”地球外からも危機が迫っている”ですね。
ここは小惑星落下の可能性について述べた箇所なんですが、気になる部分があったんでちょっと引用してみますね。
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 元々、二〇三〇年に小惑星が地球に衝突するという情報は天文台や人工衛星からではなく、ブラジル人預言者のジュセリーノという人物が数年前に見た夢に顕れたとして、米国NASAに手紙を送っていたものである。彼はまた9・11テロに関しても、日本のサリン事件も数年前に夢に現れたと述べている。
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ジュセリーノですって、艦長。

「やっちまったなぁ」だよな。
仮にも専門家を名乗る人間が預言者の言ったことをソースにしちゃいかんだろう。
ちなみにこの人、今年の夏は日本でコレラが大流行すると言ってたそうだ。
今更説明するのもなんだが、地球にぶつかりそうな小惑星を「発見した」と言うためには最低でも何時頃どの方向から飛んでくるかという情報を提示してそれが実在する事が第三者によって確かめられなきゃマズイと思うんだが。
…贅沢を言えば○月○日から×月×日にかけて△△座を通過するくらいの情報は無いとな。
従って、コレはふつーにスペースガードの人達の努力の賜物かと。
で、このスペースガードという団体は日本にもあるわけなんだが、ここの節の結びの部分はこうなっている。
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 日本は二〇〇八年に宇宙開発戦略本部を設置したが、小惑星の探査を米国だけに任せていては、小惑星からの危機や宇宙開発等で米国と対等に渡り合うことなどできないことを認識する必要がある。
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なんで本にする前にもう少し調べてくれなかったのか…

そして、”日米同盟の価値は大幅に減少している”ですね。
ここの内容は米国民主党は伝統的に日本敵視・中国愛好なので今後必要以上に日本叩きをしながら中国と接近してゆくだろうという事みたいです。

たしかにここは大筋では合っている。
日米同盟とて永遠ではないし、日本が強くなりすぎればこれを叩くというのはアメリカとしては当然の事だ。
しかし、一度アメリカの立場に立って考えてみると、日本ばかりではなく中国或いはロシヤ、どこか一国が強くなり過ぎるという事は即ち東太平洋の制海権を脅かされる事を意味する。
あの国は太平洋を自分の庭の池みたいに思っているわけだから、これは由々しき問題だ。
というわけで、日本にはこの二国の蓋をして欲しいし、その分際を弁えないのなら遠慮なく叩くという事だろう。
理想を言えばこの三ヶ国には互いに牽制しあっててほしい。
…逆に最悪のパターンはこれらの国が同盟してアメリカに立ち向かうようなケースだろうね。
さて、次の節では当の中国について述べられているわけだが。

はい、”中国の対日戦略は日本を属国化すること”の節ですね。
ここの結論はつまるところ
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 ともあれ、中国は日本を徹底的に利用し毟り取る国家戦略を追及し、最終的にはかつての王朝が行った冊封体制の中に、日本を属国として取り込むことを目標としていると断言できよう。では日本はこうした国々の戦略に対して如何に対応すれば良いのであろうか。
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という末尾の部分に集約されていますね。

中国は野心的な国家である。
これもまあ大筋では正しい。
しかしここで、当の中国が日本を必要以上に脅威視しているという点が述べられていないのはどうもな…
国土は狭く、人口はこちらの十分の一でろくな資源も無いのに経済力は同等で加えて世界トップクラスのハイテクを保有している。
しかも中国へは過去に来寇してきた事実がある。
というわけで、日本に右翼政権が現れたら持ち前の経済力とハイテクを背景にあっという間に核武装して軍事大国化してしまうに違いない、少なくともその能力がある。
だから日本の世論が右に振れるような事態だけは是が非でも避けねばならない。
…というのが中国人の考えている事らしい。
むろん、だからと言ってそれに同情して日本だけ軍縮を進めたり必要以上に中国に媚びるような政策をとる必然性は無い。
小官個人の意見として、特に警戒すべきは日米離間策だな。

…これでやっと半分なんですか。
なんだか政治の話ばっかりですねぇ

そりゃまあ、この先生文系らしいからな。
で、次の節”日本が今始めなければならないことは”だが、
1.安全保障問題
2.経済問題
3.中国対策
4.政治屋の無能
…とまあ四つの問題を解決しなきゃならないんだそうだ。
政治屋の無能をどーにかすれば他はすぐにでも方が着きそうな気もするが。
で、結論はと言うと
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 日本の場合は兵器開発をして戦争を起こすのではなく、ハイテクを利用した公共事業として「巨大プロジェクトX」を立ち上げることである。このプロジェクトを立ち上げれば、国内の大企業はもとより中小製造業を活性化するために内需が大幅に拡大することになる。
 それによって、ほとんどあらゆる経済産業界が参加できる裾野の広い基幹産業が成立し、同時に優秀な若手研究者・技術者も大量に雇用ができ、日本経済は米国やEUそして中国等のGDPを合計した数字をはるかに凌ぐGDPを掌中にすることは間違いない。そのためには、政府はプロジェクトXのために巨額の財政支出をする必要がある。
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だそうな。

”兵器開発をして戦争を起こすのではなく”って…
この本の題名はたしか「平和宇宙戦艦が世界を変える」でしたよね。
宇宙戦艦って、兵器じゃないんですか?
それに、お金って回るものでしょう?
日本のGDPが米・中・欧の合計を凌ぐって、ドルに代わって円が世界の基軸通貨にでもならないと無理なんじゃ…

序盤の時点で現実と願望をかなりごっちゃにしてるよな。
こんな調子でずっと続いてくれると困るんだが、次の節
”世界が求める日本のリーダーシップ”では更に電解強度が高まる事となる。
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 核兵器や弾道ミサイルの獲得に地道を挙げている世界に対抗して、日本も核戦力を持つのでは永久に世界は平和にならない。世界で最先端の技術力を誇る日本は、核戦力を全く無力化してしまう技術を開発してこそ、世界平和に貢献することになる。
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で、日本が国家を挙げて取り組むべきプロジェクトは海洋・宇宙開発技術とレーザー等のビーム技術なんだそうな。
まず、”核戦力を全く無力化してしまう技術”というのがな…
それに戦史をひもとくと、昔の列強は核戦力の整備に血道を上げるが如く戦艦の建造競争をやったもんだが、これが空母の登場で全くの時代遅れになってしまった。
では空母で世界が平和になったかというと、空母で戦争するようになってしまった。

という事はですよ艦長、この人のプロジェクトが実現した場合ガンダムか何かみたく宇宙空間でドンパチやってデブリが発生しまくるわけですか?

確実にそうなるだろうね、こればっかりは人間という生き物の業みたいなもんだ。
で、最後の節になるわけだが。

”日本のプロジェクトXは人類を幸せにする”ですね。
ここは要するに宇宙開発について述べられている部分になるわけですが…

まず気になるのはこの部分だな
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 一方の米国は、スペースシャトルの開発が間違いだったとして、二〇一〇年にはシャトルを引退させ、国際宇宙ステーションでの研究活動からも撤退を表明している。米国はスペースシャトルに替えて、貨物の運搬を「宇宙エレベーター」で行う予定である。
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アレスロケットは無い事になったんですか?

たしか米国の動向としてはシャトル退役後はソユーズのチャーターでアレス実用化までお茶を濁すんでしたっけ?
軌道エレベーター」はそのずっと先にある目標でしたよね。
どのみち、オバマの民主政権じゃそれも確実に縮小されるでしょうが。

軌道エレベーターに関する記述では他にも気になった部分がある。
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 宇宙エレベーターに使うケーブルは、重力と遠心力の引っ張りに耐えるために鋼鉄の一八〇倍以上の強さが必要となるが、呆れたことに、その素材はなんと日本企業が開発済みの「カーボン・ナノチューブ」と、推進力として高性能の日本製電池を利用することを考えているのである。電池へのエネルギー供給にはレーザービームを利用する事を予定しているが、日本が決心さえすれば、宇宙エレベーターの実用化を最速で達成できる国家なのである。
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カーボンナノチューブって、たしかに日本企業が売っているが、あれは研究試料としての用途が主で構造材料としての実用化はまだまだ先の話だった筈だぞ?
現在のカーボンナノチューブ研究のトレンドはたしか集積回路で、細くても大電流を流せ熱伝導率が高い性質を応用できないかという事だったと思う。
宇宙エレベーターのケーブルなどに使用する構造材料としての用途は今のところカーボンナノチューブの長繊維が大量生産できないことから、まだまだ実験段階だったと記憶している。

あれっ?
艦長、この人アレスロケットの存在は認知しているみたいですよ、ホラ。
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 さて、米国が国際宇宙ステーションから撤退する理由のもう一つは、無重量状態にある宇宙ステーションに高い金と危険を犯して出掛けなくとも、地上において無重量状態を作り出すことができるため、宇宙ステーションを利用することはない、という考えに基づいている。同じリスクならば、直接火星に行って研究や実験を行う方が、多くの点でメリットがあると計算しており、そのための資材運搬用として「アレス」という巨大ロケットを開発中である。
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…アレスロケット開発の目的の一つに有人火星探査計画があるのは事実だが、あれは基本的にはシャトルの代替として開発されてた筈だ。
それに、地上で作り出せる無重量状態はせいぜい数秒程度なんで、宇宙ステーションの実験環境とは比べ物にならない。
むしろNASAが月探査計画や火星計画で考えているのは資源開発や宇宙殖民…極端な話をするとテラフォーミングなんて話もあったと聞くがの。

でまあ、本章の結論としては、日本は地球が抱えている難問を解決し、世界平和に貢献し、日本を太陽が沈む事の無い経済大国に押し上げるような宇宙開発をするべきだという事のようですね。

なんかこう、玉虫色の理想論という気もするが…
この目的を達成できるような宇宙開発といったら、ふつーに地球外資源を開発して日本が慢性的に抱えている資源不足を解消するとか、スペースコロニーを建造して増えすぎた人口をそこへ移民させるとかすればいいと思うんだがな。

ファーストガンダムの世界ですよね。
現時点では宇宙へ行くための輸送費が掛かりすぎる事が問題で、さっき出てきた宇宙エレベーターなんかはそれを解消しようという構想なわけなんですが。

なんだってそこで宇宙戦艦が出てくるかが疑問だが、それは次章で扱う事になるようなので、今回はここまでとしよう。

了解。

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