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2009年8月26日水曜日

平和宇宙戦艦その3

 ども、こんにちは。
今回は「平和宇宙戦艦が世界を変える」の第三章
”レーザー技術が世界の難問を解決に導く”です。
では先任、内容の紹介を始めよう。

はい、ここの最初の節は”最先端を走る日本の技術”です。
内容はレーザー技術と自由電子レーザー技術で日本は世界トップクラスの技術力を保有しているという事ですが、やはり所々に間違いがあります。
突っ込みますか、艦長?

いや、次節とも被る部分があるんでここは見送ろう。
ただし一つ。
この節では核融合炉を実現するためには一億度前後の高温に半永久的に耐える炉を作る必要があると書かれているが、実際には平気だ。
レーザー核融合の場合、反応は断続的に起こるので、瞬間的に超高温が発生しても炉を冷却する十分な時間的余裕を設ける事ができる。
プラズマ核融合の場合、反応に使うプラズマは超低密度の状態なので、こいつが炉壁に触れてもたいした熱量を伝える事ができないうちにプラズマは冷え切って反応が停止してしまう。
次に進んでいいぞ。

はっ、次の節は”軍事技術としてのビーム”です。
ここでは米軍が
1.レーザービーム
2.粒子ビーム
3.電磁波ビーム
4.プラズマビーム
について研究開発を進めており、中でもレーザービームと粒子ビームはすぐにも実戦用兵器としての使用が可能。
そして軍事用レーザービームとしては
1.炭酸ガス
2.化学
3.フッ化クリプトンガス
4.自由電子
が既に実用化に限りなく近い段階にあるとしています。

炭酸ガスレーザーというのは、現在一般的にレーザー加工機なんかに使われているタイプのレーザーだ、発振効率が非常に高いという長所がある。
化学レーザーというのは、早い話がガスを燃やして発生するエネルギーをレーザーの形で取り出すもので、連続発振が容易なのが特徴。
フッ化クリプトンガスレーザーは「エキシマレーザー」と言った方が通りが良いな、波長が短くて発振効率も高めなので半導体の加工などに使われる。
自由電子レーザーは波長が可変という特徴があるが、軍事利用が可能な水準の出力を出せるようになったのは、21世紀に入ってからの事だ。
が、問題はここだ。
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 自由電子レーザーは一九八〇年代中葉で、既にスタンフォード大学では四〇億電子ボルト、コーネル大学では八〇億電子ボルト、ロシアのノボシビルスク研究所では二二億電子ボルト、ドイツのデシイ研究所では五〇億電子ボルトを達成し、一九九〇年代になると、日本の筑波にある高エネルギー研究所では三〇〇億電子ボルトの自由電子レーザーを完成している。
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”電子ボルト”ってのはビームの出力の単位ではない、波長の単位だ。
そりゃ強力な発振機を使えば、それだけ波長の短いビームが作れるし、ビーム自体のパワーも上げやすいが勿論正比例の関係にあるわけではない。
実際、この時期の自由電子レーザーは電球並みの出力しかなかった。
しかしまあ、そこは放っておいて次に進もう。

すると、”如何にしてマッハ26の弾道ミサイルを照準するか”となるわけですが…

ここの内容は昨今のレーザー兵器の実用化の進展について述べているな。
まあ、最後のところのレーザービーム砲を備えた巨大宇宙船を日米で共同開発し、配備しようという主張以外は取り立てて言うほどの事も無い。

ただし、その次の”全ての紛争と対人地雷、宇宙ゴミ問題を解決”の節ではバラ色と言うか…
まず初っ端から
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 レーザー砲を照射する巨大宇宙船の利点は、あらゆる兵器に対して、その能力を奪う事ができるが、いずれも兵器を操作する人間を少しも傷つけないため、恨みや憎悪の感情を醸成せず、従って報復感情も強く起きない点である。
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と、こうやっちゃってます。

確かにレーザー兵器の長所として付随的被害が少ないという点がある。
これは敵の急所だけをピンポイント攻撃して、周囲に広がる被害を最低限に抑える事ができるという意味だ。
だが、それでも人に当てりゃそりゃあ死ぬ。
…兵器だもんな。
そんなものが宇宙から見張っているとなれば、多分報復感情とは別の感情が芽生える事になると思うのだがな。
また、スペースデブリ対策にレーザー砲搭載の宇宙船を使用する意味はあるかも知れないが、宇宙空間から地上の兵器を破壊して軍事紛争を解決してしまうとか対人地雷をレーザー砲で焼き払うとかいうのは…
「少なくとも今のところは妄想です」
仮に実現したところで、対策を立てる側の必然としてそれを偽装・隠蔽されたりした場合、リモートセンシングだけで紛争当事国の保有する全ての兵器を発見したり、地雷を全て見つけ出したりという事は非常に難しくなる。
そもそもリモートセンシングが万能ではなかったからこそ、米国は衛星偵察一本槍を改めてヒューミントにも力を入れるようになったわけだしな。

次は”温暖化を防ぎ、食糧増産に活躍”の節ですが、ここの内容はレーザー技術を応用すれば環境汚染物質を浄化し、更には食糧生産までできるという話です。

この節はまた間違いがちょこちょこ出てきているんだが、全体の流れから言って最大の問題点は「汚染物質を浄化しても二酸化炭素は無くならない」という事だろうね。
例えばここにはローレンス・リバモア研究所とタイパーズ社が共同開発した汚染物質除去装置「ゼトロン」のものとされる模式図が掲載されているんだが、これは真空中に置かれた電子ビーム発生装置からチタン薄膜の窓を通して電子線を出力し、汚染物質に照射して水蒸気と炭酸ガスに分解するという仕組みになっているようだ。
早い話が燃やしちゃってるわけだな、おまけにレーザー技術ではないし。
当然だが、電子線を作るには電力が必要でそのためには二酸化炭素が排出される。
本節には火山ガスや旧日本軍の遺棄した化学砲弾の浄化に使えるんじゃないかという記述もあるが、断言してもいい。
「ゼトロンじゃ無理」
何故ならば、今言ったとおり燃やしちゃうのがこの装置の浄化原理のようだが、火山ガスには硫黄が含まれているし、旧軍の化学砲弾に使用されているイペリットにはルイサイトが混ぜてあるので砒素が出てくる。
常識的に考えて、この種の元素レベルで毒性を発揮する物質には化学的性質を変化させて人体に取り込まれにくい形態に変えることは出来るかも知れないが、完全な無毒化はできないと思っていいだろう。

あと、食糧増産に関してはこういう記述がありますね。
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 一方、レーザー技術は食料の生産分野にも貢献しつつある。例えば、東海大学では、光ディスクの情報読み取りに使われる半導体を使って、水耕栽培する野菜や花に人工照明を当てる光の代替に成功している。現在、植物の成長を早めるために使用されている人工照明は、ナトリウムランプを光源としているが、発熱して危険なため冷却装置が必要であり、生産コストの三割は電気代と水道代が占めている。
 ところが、光源としてレーザー半導体を使用することによって、水と冷却装置が不要となり電気代も大幅に節約される。これだけでも水耕栽培産業は、二〇〇八年度には二〇〇〇億円以上の市場になったと計算されている。
 これらの技術をロボット技術と組み合わせれば、豪雪や台風、旱魃などで畑での野菜が打撃を受けても、工場で水耕栽培される野菜があれば安定供給が得られることにもなる。こうした技術は、アフリカやアジアそして中南米など飢餓に苦しむ地域に積極的に支援をしていく必要がある。
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まず間違い、東海大学でやってたのは同じ半導体でもレーザーではなく発光ダイオードでしたね。
それに、この種の技術については施設を稼動するのに膨大なエネルギーが消費されるのでむしろ温暖化を加速する事になるのではないか。
また、殆ど無菌状態で作物が栽培されるため主として培養用の液肥から病気が爆発的に広がり大ダメージを与える事がある。
発展途上国などに導入する際、設備を建設するのにも運用するのにも莫大なコストが掛かるのでお勧めできない。
…等の問題点があるとされています。
将来的にスペースコロニーなんかの中で食料を自給自足して食ってゆく分にはいいんでしょうけどね。

そして本章の最終節”医療技術に貢献するレーザービーム”となるわけだが
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 現在は未だ開発されていないが、盲目の人や聾唖の人にしても、あるいは近眼や色盲の人にしても、新たに開発されるレーザービームを外側から照射するだけで、機能を回復して正常な状態に戻すことができるようになる可能性もある。実際、白内障の治療にはレーザー技術が使われているのである。
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いきなりこんな事が書かれているな。
レーザー治療というのは要するに組織を焼き切るわけだから、盲目や聾唖、色盲といった先天的なケースについては適用し難いんじゃないのかな?
こういうのはむしろ再生医療の分野だと思うが。
ただし、近眼については既にレーザー治療は実用されている。
レーシック」というのがそれだ。
…実際には、レーザー治療が実用化される前にメスを使った切開で同様の効果を得る「放射状角膜切開術」というのが実用化されてたんだがな。

あと、ここでは脳外科手術に使用される「電磁場メス」というのが紹介されていますけど、これはレーザー技術ではないですね。
少し調べてみたところ、どうも高周波メスの一種であるようです。

そしてまた後半の部分に来ると話が前後するんだが、中国から輸入される食品に毒物が入っている可能性があるからというわけで
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 こうした毒物が混入された食品に対して、現在のような一部の抜き打ち検査をしなくても、特殊なレーザービームを全ての中国食品や商品に照射して、一瞬のうちに浄化してしまうことも可能となる。レーザー技術はほとんどあらゆる分野に利用が可能なため、多額の基礎研究費を開発に投入すれば、人間生活を豊かにし、かつ安全な社会を実現することも可能になるはずである。
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と、こうやっているな。
先刻説明した通り、例のゼトロンは早い話が焼却処分なわけだから、毒餃子を持って来て電子線を照射した場合、まあ消し炭になるだろう。

まあ、そうそう美味い話があるわけないですよね。
というかこの人、レーザー以外の技術もレーザーということにしちゃってる例が多々見受けられるんですが。

だが、この程度の事実誤認で怯んでいるわけにはいかないぞ。
次章はいよいよ”日本が建造する巨大宇宙船とは”つまり
「ぼくの考えたうちゅうせん」を扱った章となる。

やっちゃうんですか…

やっちゃうんです!

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