このブログを検索

2007年8月29日水曜日

跳弾の話「比較実験は公平な条件で行なおう」

今夜放送されてた「ベストハウス」にて
アメリカのディスカバリーチャンネルがやったおバカ実験の映像を見たのですが、ちょっと気になった事があったので。

「水に潜れば鉄砲に撃たれても水が弾よけになって平気」
を確かめるため、深さ三メートルの水槽に人体に見立てたジェルを入れて銃で撃つという方法で実験したところ、
9ミリ拳銃弾(P239だとのロゴが出ていた)だと2メートル40センチ以上潜れば致命傷は免れた。
さて、同様の実験を装甲車を攻撃するような50口径ライフル
(こっちはAR-50だそうだ)で行なった結果、何と水面に当たった衝撃で弾丸が割れて飛び散った。
…以上の結果から、「威力の高い火器ほど水の弾よけ効果は大きい」という結論を導き出しておりました。

しかしながら、小官が気になったのは、「水面に対する弾着の角度」であります。
 拳銃弾の場合、垂直の水槽に真上から撃ち込んでおりましたが。
50口径ライフルの場合、銃そのものがでかくて取り回しがアレだったので、水槽をプールへ持ち込み、斜め上から撃ち下ろすという方法で検証をやっていたんです。

 つまり弾丸に対して衝撃が正面からではなく斜めから掛かる。
要は被弾経始(という漢字で正しかったと思う)の問題からちょっと不公平な実験だったんじゃないかなと思うんです。
詳しく知りたい方はT−35戦車について調べてみて下さい。
 調べる気力の無い方の為に説明すると、まあ、飛来する弾丸に対して弾よけの板が斜めになってれば、当然弾丸は逸らされたり弾き飛ばされたりする確率が高くなります。
じゃあ、傾ける角度に対してどの程度の防御効果が得られるかと申しますと、一般的に傾けた角度の1/sinだけ装甲の厚みを増したのと同じ効果が得られると言われております。その分だけ装甲の中を余分に通る事になりますので。
プラス装甲板が全体的に丸っこい形状になっていると、弾丸が装甲の表面でつるっと滑って逸らされる確率が高くなります。

 このあたりの問題には旧陸軍がたいへん悩まされておりました。
至近距離から放った徹甲弾がM4戦車を撃破できない。で、こっちのチハたんはブリキの玩具の如くべっこんべっこんにやられる…
ところが海軍は既にこの案件を解決するヒントを持ってたんですねー

 海軍といったらあの時代は戦艦で漢らしくズドンズドンとやりあうのがメインでありました。
まあ、余程の至近距離で撃ち合わない限り命中率は5%とかいう世界でしたので、ど派手な見てくれの割にはまあ、牧歌的な戦争をやっていたと言えるかも知れません。
 これが艦上爆撃機からの急降下攻撃となると、平均的な練度の搭乗員が放った爆弾でも三割五割は当たる。
おまけに従来の戦艦は艦砲射撃を想定して側面装甲の割に甲板装甲はあんま厚くなかったので、重巡洋艦が二発の直撃弾で屑鉄と化しますよという話になりました。
さらに飛行機は艦砲射撃が届かない数百キロの距離を往復してミッションを遂行できるので、そりゃ空母の時代になりますよと。
ですから、あんだけ攻撃機にたかられて中々沈まなかった大和はまさに「最強戦艦」であり「最後の戦艦」だったわけです。
で、今はもう対艦ミサイルの時代ですから、どんなに強そうな軍艦であっても、対空がお粗末であれば、フォークランド紛争に参戦したとたん、ミサイル艇の放った一弾で致命傷あぼーん。
まったくもってロマンもヘッタクレも無い時代になったものです。

 話がめちゃめちゃ逸れましたが、つまり当時の日本海軍は艦砲射撃の命中率を高める為に色々研究してたわけなんです。
で、弾丸が斜めに水面に入ると、まあ、水の抵抗を不均一に受けるために結局弾丸が跳ね飛ばされてしまうという事で、徹甲弾のてっぺんを一度切り落として平たくし、その上に軟鋼で作ったとんがり帽子を被せてやる事で、水中に入っても直進する弾丸を開発しました。
空気中を飛行している間はとんがり帽子が空気抵抗を低減し、水面に当たるとこいつがふっ飛んで平たい弾頭がむき出しになるので、水面で弾丸が弾かれるのを防ぐという仕組みです。
こいつが帝国海軍自慢の「水中弾」というやつで、これある為に帝国海軍の艦砲は敵艦の喫水線下のほぼ無装甲の区画を狙う事が出来た…
 と、仮想戦記には書かれておりますが、実際にはこの水中弾効果は実戦では殆ど起こらず、逆に弾丸の信管の遅延時間がこれを期待して長めに設定されている事による弊害の方が大きかったそうです。
この話について詳しく言うと直進性云々という難しい話になるので、あとは各自調べてきて下さい。

 まあ、そういうわけで、弾丸が水中に入るとき、水面に当たる角度だけで大違いになるという話です。
仮にAR-50を水槽の真上から垂直に撃ち下ろしていたら…
ああ、水槽が木っ端微塵になってしまいますね。

 …へ? オチてない!? そですか…

0 件のコメント: