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2009年9月9日水曜日

平和宇宙戦艦その5

 ここのところ小官が扱っている平和宇宙戦艦とは、つまるところレーザー砲を搭載したスペースプレーンであり、架空兵器でこれによく似たものを探すとすればそれはやはりアークバードあたりになるのではないでしょうか。
もっとも、現時点では無人機すら実用の域には無いスペースプレーンならばともかく、在来型の航空機にレーザー砲を搭載して対地攻撃プラットホームとして使用するという研究は既に限りなく実用に近い段階にあります。

さて、皆さん今回はいよいよ「平和宇宙戦艦が世界を変える」の第五章
”米国が平和宇宙戦艦建造を渋るわけ”
ここではついに本書の著者である杉山徹宗法学博士の国際情勢に関する分析が見られるようです。
先任、始めてくれ。

はい、本章の構成は以下のようになっております。
・日米共同開発が理想的なわけ
・真の日米同盟が問われている
・なぜ米国は平和宇宙戦艦建造を逡巡するのか
・軍隊は今後も一〇〇年間はなくならない
・オーストラリアも賛成の平和宇宙戦艦プロジェクト

というわけで、最初は”日米共同開発が理想的なわけ”だな。
ここでは日本が平和宇宙戦艦を開発・配備するにあたって
1.法的な問題
2.国際政治上の問題
3.日本の情報通信設備が遅れていること
という三点が挙げられている。
3の情報通信設備の問題に関しては常識的なことしか書いてないので置いておくとして、アレな記述が目立つのは1と2だな。
まず法的な問題の点で、日本は宇宙空間の軍事利用に関する縛りがきついが、米国では平和維持のための軍事利用ならば許されるという解釈なので実際問題として米国と共同でやった方がやりやすいと。
そして国際政治上の問題として、宇宙からビーム攻撃をされると困る国が外交的に妨害してくるだろうから、日米で平和宇宙戦艦を完成し試験運用を終えた後にはその管理と運用を国際連合に委譲してあとは一切手を引く事にすればいいと。
まあ、こんな事を言っている。

米国を利用し倒して、その実は国連宇宙軍にというわけでしょうか?
過激と言うかお花畑と言うか…
ただ、続く”真の日米同盟が問われている”の内容はわりとマトモです。
日米の主要新聞を比較したところ、日本は「外国=アメリカ」とでも思っているのか海外に関する記事は米国を含むものがやたら多いのに対して米国の新聞はあらゆる国を満遍なく扱っている傾向が強い事。
そして日本のメディアが国際問題の大部分を占めている軍事問題をあまり扱わないために平和ボケが蔓延しているということ。
…困った事には総括の部分でやっぱりアレな記述がある点ですね
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 日本の、沈黙を守る政治や外交スタイルでは、日米同盟はますます形骸化する方向にあり、それどころか、米国や中国の狭間にあって埋没する危険性が出てきている。米国に日本の重要性を認識させるためにはまず、日本経済を世界トップにすることが重要で、日本を抜きにしては政治も経済も技術も立ち行かないと、認識させるしかないのである。さらに米国が中国と基軸を組む事が如何に米国にマイナスとなるかを悟らせるためには、日本自ら平和宇宙戦艦の建造を推進するしかないのである。
 なぜなら、平和宇宙戦艦プロジェクトの発表は、うかうかすれば日本経済が米国を完全に凌駕するだけでなく、日本が米国に替わって世界の警察官になりかねない(日本にはそんな気は毛頭ないが)として、あわてて日本重視の外交・経済政策へと転換することになる。というのは、米国人は世界中の人々が米国を嫌っていることと、日本を最も高く評価していることを知っているからである。
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日本側の国際認識の問題を取り上げたところで、無理矢理このまとめをくっつけちゃうのは乱暴としか思えませんが。

いや、それでもそこの内容はやはり「わりとマトモ」と言うべきだよ。
なにせ”なぜ米国は平和宇宙戦艦建造を逡巡するのか”の節ではいきなりこんな記述がある
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 実は、筆者は一年ほど前から、米大使館関係者を通してペンタゴンに対し、「日米共同の平和宇宙戦艦建造計画」を提案し、その英語論文を送っているが、ペンタゴンは筆者の提案に対して明確な回答を避けてきている。
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送っちゃったんだ、しかもわざわざ英語に訳して!
というか、窓口に使われた大使館関係者の人がかわいそう…

小官のようなアマチュアが見ても、ふつーにリジェクト以前の内容だと思うのだがな、この先生はそれを世界が本当に平和になってしまうと米国が困るからだという事にしている。
第一に平和になると軍人がクビになる。
第二に大量の軍備がまるまる無駄になる。
第三に軍産複合体の人が困る。
第四に世界最強の軍事国家の名を捨てたくない。
…という理由があるから偉い人は一顧だにしないのだろうと言っている。

偉い人は?

うん、米軍でも若手の尉官や下士官クラスは大いに興味を示したそうだ。
直接戦場で戦う立場にあるから兵器を無力化する構想に興味を示したんじゃないかと言っているな。

ふつーにダマされてますよそりゃ。

で、続く”軍隊は今後も一〇〇年間はなくならない”の節では偉い人が心配するように、世界が平和になったからといって即軍隊が不要になるわけではないとフォローを入れている。
平和宇宙戦艦が強制的に世界中の紛争を停止させたとしても、戦後処理や復興のために、従来よりは軽装になるもののやはり軍隊の存在が必要になるのだそうだ。

もっとも、そこではこんな事を言ってますけどね。
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 平和宇宙戦艦が完成し、地球上のあらゆる国家間戦争や地域紛争を停止したとしても、事後の処理が必要なのである。核兵器や各種兵器の処理も残っているし、地雷やクラスター爆弾などの処理も残っている。そうした作業は、現在の陸・海・空軍などでなければできない仕事である。
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以前扱った章で、平和宇宙戦艦はいかなる兵器や地雷もリモートセンシングで宇宙から見つけ出し、レーザー砲で破壊して無力化できるとか言ってませんでしたっけ?

なーんか混乱を招く書き方だよな。
…この本の場合珍しい事じゃないが
そんでもって章末の”オーストラリアも賛成の平和宇宙戦艦プロジェクト”だが、ここの内容はオーストラリアに平和宇宙戦艦の話を持ち込んだところ代絶賛だったからアメリカ以外にも協力する国を探すとしたらオーストラリアがいいだろうというものだ。

ところがどっこい、やっぱりこんな記述があったりします。
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 オーストラリアを訪問して議論した時点では、専らレーザービーム砲によって弾道ミサイルを撃墜する有効性に関しての議論であったため、二〇世紀の技術でも充分に建造可能という点で一致したが、平和宇宙戦艦が海上から発進する話はしていなかった。彼等の認識は、日本の平和宇宙戦艦の帰還用としてオーストラリアの広大な国土に長い滑走路を建設する協力を考えて約束していたものである。
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これってやっぱり「ダマした」って言いません?
というか、オーストラリアの偉い人が賛成したのは基本的にレーザーMDの事なんじゃないかと思いますが。

お花畑なのかケシカランのかどっちかにしてくれと言いたいところなんだが、困った事に次回扱う”平和宇宙戦艦がもたらす政治・外交上の効果”ではどうもこの調子でどんどん進んで行くようなのだ。
全く困ったものだね。

そんなのにいちいち付き合う艦長もね。

…先任、あとでゆっくり話し合おうか。

自分は雑用で忙しいのです。
そういう話は一週間後にでもお願いします。

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